第47話

──1枚、2枚と数えていく。12枚あったそれは、気がつけば11枚になっていた。もしかしたらポケットからポケットへの移動の最中に、落としてしまったのかもしれない。

宝物の一部が、無くなってしまった…。



ケイシはもう部屋にはいない。

今は朝らしい。

きっと仕事に行ったのだろう。


まだ昨晩の事情でなった下半身に違和感を覚えながら、そんな事を思いもう二度と写真を無くさないように大切にポケットの中に仕舞おうとした時、

玄関の扉が開く音がした。


足音で分かる。

どうやらこの人は、ケイシに言われたのか、この部屋を自由に行き来できるらしく。



私の方に来る彼は、「…これ使え、洗濯に紛れたら掃除に困るからな」と、何かを私に差し出してきた。

何を差し出してきたか分からない。

それでも手を伸ばしすんなりと受け取ったのは、相手が安心できるユウリだからか。


柔らかい布のようなもの。

でも冷たくて、硬い金属のような物もついている。多分、これはファスナー。

ということは、何かのポーチ…だろうか。



「え…?」


「じゃあ、また夜に来るから…」



ユウリはそう言うと、帰ってしまうのか、玄関の方へと足を進めているようだった。


洗濯に紛れたら困るから?

ユウリの言葉に、目の奥が熱くなった。

ユウリはバラバラになった写真を、この中に入れておけと言ってくれているのだと。

そのためにわざわざ届けに来てくれたらしい。

目が見えない。

今座っているソファが何色かも分からない。分からないこそ、ユウリの優しさが心に染みる。




夕方、ずっとソファに座り何もしない私のところにユウリがやってきた。ユウリからは外の匂いがした。

彼は私のご飯を届けに来てくれたらしい…。



ユウリが帰ったあと、すれ違いのようにケイシが帰ってきた。

ケイシは「ただいま」など言わない。

ケイシが帰ってきたと分かるのは、足音だけ。

私に声をかけず、昨日と同じようにイスに座る音がしてカチ、とライターの音が聞こえた。



「…飯は?」



今、何時なのだろうか。



「…食べました……先ほど……ユウリさんがきて、おにぎりを…」


「風呂は?」


「……入りました…」




また、立ち上がる音がして。

昨日の出来事を思い出した私は、びく、っと肩を揺らしたけど。遠ざかっていく足音に心がほっとした。



遠くで物音がしたと思ったら、水音が聞こえてきた。

どうやらケイシはシャワーを浴びているらしい…。




もうほぼ24時間たっているというのに、違和感が残ってる下半身は…、この場から逃げたいと言っているようだった。

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