第43話

…この横に、俺の名も書かなければならない。



「…また書いて出しておく」


「俺が出さなくていいんですか」



確かに出てこいって言ったけど。

そう聞いてくるってことは、もうこいつは自分の力だけでは救い出せないと判断したということ。

その方がいい。

女とふたりで逃げても、逃げ場はない。

こうして影から見守るのが、今のお前のすべき事…。




「…いや、いい、委任状書くの面倒だしな」


「……」


「明日、あの女を家に移す、その準備をしておけ」


「分かりました」


「移す時、お前は来なくていい」


「同行します。もし怪我でもしたら俺の仕事が増えるんで」



頭を使うようになったらしいそいつ。

ただ女のそばにいたいだけだろうに。



「…わかった、そのかわり怪我ひとつしてたらお前の指折るからな」


「はい」



まだ、お前はこの世界を知らない。

いつ死ぬか分からない世界…。

組長の孫であるお前は他の組からも狙われやすくなるだろう…。



────…七渡さんが、こいつを外にやりたいために、俺の下に寄越したことはもう分かってる。



「丁寧に運べよ、あれはもう俺のだからな」

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