第40話

さっきも言ったように、目が見えなくなれば、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされる。

ユウリが部屋から出ていったあと、「──…分かったか?」と、ケイシの声が遠くの方で聞こえた。



「お前がしてること」



すごく遠くで聞こえるのに、ケイシがバカにしたように笑っているのが分かった。



「お前の顔見る限り、どうせあいつに何か言われたんだろ。…前に言ったな、好きなやつがいながら他の男に股開くのは残酷だって。お前それもう1回言わねぇと分かんねぇの?売り物だった女からも言われないと分かんねぇのか?」


「ケイシさん…」



高い声よりも、低い男性の声の方が、耳によく響く。



「お前の前の事情は知ってるよ。好きな女を自分のもんに出来なかったこと。軽く調べれば簡単に分かるからな」



好きな女…。

ユウリの好きな人?



「聞いたところによれば、その女もお前の事が好きで──…、お前のためなら、他の男に抱かれても何でもしたってな」


「…」


「その女は強い女だったみたいだけど」


「……」


「世の中には我慢できない弱い女もいる」


「……」


「俺の下につくなら、ここに入ってくるなら、甘い考えは捨てろ。情は持つな」


「仕事はきっちりします、ケイシさんの言うことにも従います…。けどあの子に冷たくは出来ません」


「お前、あーいう女が体売ってできた金でマンション貸りたこと、まだ根に持ってんのか?」


「ケイシさんは泣かせる事しか考えないんですか?」


「泣かせてるってお前、この状況、お前があいつを泣かせてるんじゃないのか?お前のこと、好きになりたくないって」


「……」


「あいつは俺の女になる、それは変わらない。ここも出て俺の家に住んで、抱く事になるな。シイナ、だっけ?あいつはお前のこと思いながら股開くってわけ。笑えるわ」


「……」


「睨むなよ、こんな事態にしたのはお前だろうが」


「……」


「助けたいとか、救いたいとか、お遊びの族なら通じるかもしれないけどここでは通じない。お前、父親が反対した理由分かんねぇほど馬鹿なのか?……もう1回言うけど、そんな頭の弱い考えは捨てろ」


「……」


「〝優しさ〟を間違えるな」


「……」


「〝優しさ〟は、ただ甘いお菓子をやるだけじゃない。──…この世界にいるなら、覚えとけ」

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