第34話

「どうするって言われても、俺はナナじゃないから分からない…。ナナがどんな感情を持ってるかなんて…。ナナは月の時みたいに凄く欲しいって思ってるの?」



凄く欲しい…。分からない。

けど、助けたいし、あの子に優しくしたいっていうのは思う。これは同情なのか…。



「…俺なら月ぐらいの好きな子が現れたら、親なんか関係ないって突っ切るけど…」



親なんか関係ない…。



「ナナの顔見れば、めっちゃくちゃ好きって訳じゃないよね」


「……そうだな」


「ひとつ、聞きたいんだけど。ナナっていつから月のこと好きだったの?」



いつから?



「……流雨と付き合ったぐらいじゃねぇの」


「初めは好きじゃなかったよね? 月が助けてって言った時、助けなかったワケだし」


「…ああ」


「ナナさ、後から助ければ良かったって、後悔してたでしょ?」


「…」


「助けないで後悔するより、今助けて後悔する方が、ナナにとってはいいんじゃないかなって言うのは思う。同じ後悔をしないために…」


「……」


「もしかしたらその子のこと、好きになるかもよ?」



もしかしたら…。



「…そうか」



流雨の言葉に、顔を下に向ければ、「助けたいの?その子のこと」と頬杖をつく。



助けたい…

どうやって。

じいちゃんに頭を下げるか。

いや、それは絶対に父親が許さない。

きっと、もう実家にも近づくなと…



元々、ヤクザである実家には近づくなと言われていた。それを破ったのは俺自身。



「助け方が分からない…」



俺が借金を返すと言っても、そう簡単に大金は用意できない。



「なんだか、ナナらしくないね」


「…は…?」


「昔のナナなら、もっと強気だったよ。大人になって落ち着いたの?」


「流雨…」


「昔のナナはウザかったなあ。今は全くそんなウザさがないわ」


「…」


「ナナは、月の事があって、どうせ手に入らないって、思っちゃってるんじゃないの?」


「…」


「月と重なってるって言ったけど、ナナの言う子は月とは違うし。手に入るかもしれない。そう思わない?」


「……ああ」


「無理なの?元近衛隊長さん」



軽く笑った流雨に、「…舐めんな」といえば、女みたいにまた笑う。



「いいね、久しぶりにナナの本気、見てみたいかも」


「流雨」


「…頑張りなよ、ほんと…。ずっと応援してるから」


「…流雨は、どうなんだ。そういう相手、いないのか?」


「…いないよ、まだ月が好きだし」


「月以外に…って考えないのか?」


「さあ」


「俺は…いいと思う」


「何が」


「俺もずっと月が好きだった、月以外に女は目に入らないって思ってた。それなのに気になる女ができた、人の感情っていうのは簡単なものじゃないっていうのが…わかる」


「……うん、わかるよ、言ってる意味」


「だから流雨も、もし気になる女ができても、月だけだって…、後悔しない道を選べよ」


「ナナに言われなくても、」


「今頃あの二人、何してんだろうな…」



月と、一緒になった男は…。



「俺は好きな子が幸せなら、なんでもいいよ」



そういった流雨は、喉の奥に珈琲を流し込んだ。

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