第24話
ユウリさん…
そう声に出そうとしたけど、上手く言葉が出てこなかった。
会えて嬉しい…。
本来なら、もう会うことが無かったから。
「……いえ…」
少し戸惑いながら言えば、その人から笑う気配がする。
「漏らしそうなのか?」と。
トイレに向かって小走りになっていた私に、からかうように言ってくる彼に、思わず頬を赤く染めた。
分かっているくせに。
あなたと会いたいから、こうして、この時間に会いに来ていることを。
「ち、ちがいます…」
「違うのか?」
ほら、また優しく笑ってる。
「あなたに会いたかったからです…」
正直に言えば、「…嬉しいこと言ってくれるのな」と、優しい声を出す。
嬉しい…。
嬉しいと思ってくれてるの?
「わたし、…」と言う前に、彼が口を開いた。
「今日で最後だった、ここに来るの」
「え?」
「もう、全部金は返したから。西田さんに会いに来ねぇし、この窓を開けることもない…」
お金を返したから。
もうここには来ない…。
最後。
窓を開けることはない。
そんな、と、心が落ちる。
私がここを離れるよりも、ユウリの方が先に消えてしまうなんて。考えてもみなかった。
「そう、ですか…」と、静かに声を出せば、「そんな顔するな」と足音は私に近づいてくる。
そんな顔…。
どんな顔をしているのか、分からない。ただ、悲しい顔をしているんだろうな。
「今さっき、西田さんから許可貰った。今までは偶然だったけど、これからはちゃんと会いに来れる」
だけどもその顔は、ユウリの言葉で明るい顔つきに変わった。
許可?
ちゃんと会いに来れる?
何を言っているのかと、暗闇の中彼を見つめていた時、「おい」と低い声がして。
その声がケイシだと分かり、身体がビクリと震えた。
私の背後にいるらしい。
距離はあるけど、この光景を見られてしまった。ユウリと密会しているところを…。
怖くて後ろに振り返ることが出来ず、手をぎゅっと握る。
その手はすごく手汗をかいていた。
「タカが、精神的に良くなって…とか、言ってたけど、そういう事だったのな」
その声は、どんどん近づいてきて、ついには私の背後に来る。その声に、怖いぐらい、胸がドキドキとなった。
「男と会えて嬉しいって?何、お前、ここに男探しにきたわけ?」
笑っているのに、その声は、笑ってない。
「それとももう探してるのか?お前のために貢いでくれそうな男を」
怒っている。元々、私と彼が関わりを持つことをよく思ってなかったケイシ…。
「小便行くっつって男と会ってる、俺に嘘つくとかいい売女になるんじゃねぇの?」
その瞬間、頭皮に痛みが走り。
髪を引っ張られ、顔が歪む。
「つーか、随分舐められたもんだな?」
耳元で呟かれ、背中に冷や汗を流した時だった、「やめろ」と、彼の声が聞こえたのは。
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