第19話

「いま来たのですか?」


「そう」



〝またな〟ができて、嬉しい…。

思ってはいけないのに。



「そうですか…」



少し顔を下に向ければ、「こっち来る?」と言われ。こっちがどこか分からず。

え?と顔を傾ければ、「窓」と声が近づいてくる。


私の真正面に来たらしいその人は、「良かったな。アザ、マシになってる…」と優しい声を出すと私の手のひらに、自分の手のひらを合わせる。


見えないけど、感覚で分かる。


そのまま引っ張られ、足元になにがあるか分からないのに、普通は怖いはずなのに、その人に誘導されるのは怖くない…。


部屋からトイレまでの覚えたルートから離れ、足を進ませると、さっきよりも気持ちいい風が体にあたる。


窓際まで私を連れてきてくれた彼…。

なんて優しい人だろうと、再び思った。



「…ありがとうございます…凄く気持ちいい…」



ずっと部屋にこもりっきりだから。



「それなら良かった」


「昨日も、開けてくださってましたね」


「ああ…」


「すみません…時間が分からなくて…。ありがとうござました…」


「いいよ、俺も…、っていうか今日も会えるとは思ってなかったから」



私も、もう会えないんだって…


会えるなんて思っても見なかった。



「…ありがとうございます…」


「何回も言うのな」


「え?」


「お礼。窓開けただけなのに」



何回も…。

それほど謝っていたかと、また首を傾げた。



「あの…」


「ん?」


「名前はなんとおっしゃるのですか?」


「名前?」


「はい…、もう会えないかもしれませんが、知りたくて…」


「ああ…」




その人は笑うと、名前を教えてくれた。


ユウリと。


あんたは?聞かれ、シイナと答えた。





「ユウという字は、優しいのユウですか?」


「いや」


「そうなのですね…あなたはすごく優しいから…そうだと思いました」


「買い被りすぎだな、それは」


「ほんとうに、そう思ってます…。凄く優しい顔をしてるんだろうなって…」




ほら、また優しく彼が笑ってる。

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