第18話
いつもは、時間なんて聞かない。
それでも朝食か昼食か夕食か分からないタカがパンを持ってきたその時に、「…今、何時ですか?」と聞いてみた。
優しい声のあの人と何時に会ったか分からない。待ち合わせの時間を決めているわけでもない。
「…──今?…10時…ぐらい?」
あの人と会ったのは、多分、2時間ぐらい前のような気がする。だとすれば、8時…。
「…夜のですか?」
「そうだけど」
あの人は、夜の20時頃に来ているらしかった。そういえば私が初めてここに来た時も、それぐらいの時間だったような気がする。
次の日、それぐらいの時間に、トイレの方に歩いてみた。ふわりと風が包み。体もそうだけど、胸の中が暖かくなる。
窓は開いているらしい。
それでも、あの優しい声は聞こえず。
あの人が早く来たのか、もしくは私が遅いのか。それとも窓は昨日から開いているのか。
あの人ではない違う人が開けたのか。
〝またな〟はできないらしかった。
それに悲しい気持ちになっている自分に気づき、私はどうすればいいか分からなかった。
売られるか、もしくは殺される私が、誰かに会いたいなんて…。
そんな事思ってはならないのに。
思ってはならないと分かってはいるけど、次の日窓は閉まってたから、私はしばらくそこで待ってみた。
けれども足音は聞こえない。
さすがにずっといるのはできないから、私はトイレに行った。トイレの帰り道、ふわりと風が身を包み。
「……開けてくれたのですか…」
その人が開けてくれたのか分からないけど、そこにいるのかも分からない…。
それでも私の声は少しだけ、高かったような気がする。
「もうすぐ雨ふるっぽいから、10分だけな」
彼は多分、笑っている。
だから自然と私も笑みをこぼした。
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