第17話

「あんたは?」



私は?



「なんでここに?」



なんで……。

優しく聞いてくる…。


もしかしたらこの人は、声が低いだけで、顔つきは凄く穏やかな人なのかもしれない…。




「借金…です」


「うん」


「私がしたのではないですけど……」


「ん」


「親戚というか、…その人たちが親戚かも分からないんですけど…、そこに住んでいれば無理矢理サインを書かされて…」


「…」


「借用書…と書かれた紙に」


「…」


「それで18歳になった途端ここに来ました、バカですね…」



ふふ、と笑えば、なんだか男の雰囲気が変わったような気がした。



「…それっていくらぐらい?」と。



いくらぐらい…?

分からない…。

私の知っている最終の金額は2000万…。




「分かりません…、2000万でしたが、利子で増えていると思います…。目が見えない間、ここでお世話になるのもお金もかかるそうで…。もう…」



数万単位で変わってる…。

私の内臓なんかで、その金額は稼げるのか…。



「…そうか」


「そろそろ、戻ります」


「送ろうか」


「いえ、トイレはもう大丈夫です。覚えました…」


「…」


「また、お会い出来ればいいですね」




笑みを作った私は、また壁に手をやり、歩こうとして。隣にいた男は、名前も知らない男は、「明日も、」と、私に向かって呟く。




「明日も、この時間に来るつもりだから。そん時は…窓開けてる」


「…」


「…またな」




私には時間は分からない…。

今が何時なのかも分からないのに。


この時間と言われても…



〝またな〟とは、どんな確率なのか。




「はい」




けれどもそう言って笑った。



私の視界は、真っ暗なのに、少しだけ和らいでいるようだった。

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