第16話
やっぱりさっきの人の事をよく思っていないタカは、関わるなと言ってくるけど。
ヤクザだとかヤクザじゃないとか、身内だとかよく分からなかった。
だって私からしてみれば、タカ達が私を売ろうとしている悪で。
さっきの声の低い人が、私を助けてくれた善なのだから…。
タカはあの人が言った日から、お風呂の行き帰りを案内してくれるようになった。
だけどトイレは私1人。
というよりも、タカも仕事があるらしく。ずっと私の傍に居ることは出来ないみたいで。
それは、トイレから帰っている最中だった。
ふわりと体に風が当たったのは。
今までトイレから部屋までの道のりで、風が当たることなんてなかった。風の靡きからして、どこかの窓が開いているのかもしれない。
涼しく、ほんのりと暖かい、気持ちいい風に体の動きが止まる。
そうか、もう、春だから。
春風…
桜はもう咲いているのだろうかと、考えていた時。
「…会うもんだな」と、その声が聞こえたのは。少し笑みが含まれてる、優しい声だった。
風にのって届いた声だからか、余計に穏やかな気持ちになる。
「…また迷ったのか?」
冗談気味に、少しだけ笑ってる彼に、目を向ける。
多分、彼と目が合っている、そんな気がした。
「…いえ、」
「なんかあった?立ち止まってたけど…」
声が、近くなる。
「…いえ、…かぜが、…」
関わるなと言われているのに、自然と声が出る。
「風?」
「はい……、どこからか入ってきてるな、って…」
「ああ…、そこの窓開いてるな」
どこの窓が開いているのか分からないけど、こうしているうちにも、風は入ってくる。
「…好きなんです」
「え?」
「春っていうか、夏に近づく風が…」
静かに告げると、「ああ…」と返事があり。
「分かる気がする」
風が入ってきて、髪をおさえた。
元々直毛だから、寝癖があまりつかないのが救い…。
「…用事ですか?」
「ん?」
「いえ…、その…、ここの人ではないとお聞きしたので…」
身内、だけれども。
「ああ、ちょっと借りたもん返しに来てる」
「…借り物?」
「昔、マンション借りて。その時使った金返しに」
マンションを借りた?
お金…?
え?と、驚く私は、顔を傾けた。
「…借金してる、ってことですか…?」
身内なのに?
「まあ、そんなとこ」
そんなところ…?
偉い人の身内なのに?
よく分からない…。
「そん時は学生だったから」
学生…。
「学生だった時、マンションを借りた…?」
「そう、だから金が出来れば来てるって感じ」
笑いながらそう言って、その人は、「あと5万位で終わるけど」と、少しずつ近づいてくる…。
「よく分かりません…、学生なのに、マンションを…?どうして借りてまで…」
「さあ、なんでだろうな」
彼が私の横に来る。
「身内に、借金なんて…」
「返さなくていいって言われたけどな、友達からも払うって金握らされたけど…。まあ、ケジメみたいなもん」
「ケジメ…ですか」
というよりも、友達って?
「身内が受け取らないから、こうして西田さんに会いに来てる。それが俺の来てる理由」
身内が受け取らないから…。
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