②
第13話
今までタカは私を浴室までの案内をしてくれていた。
だけど今日、風呂から上がり服を着ていた私の傍で、タカが誰かと電話をしていた。
タカは「すぐ行きます」と返事をしてた。
そんなタカは電話を切り終えると、「お前、何回も来てるから1人で帰れるだろ」と私に言う。
正直、トイレよりも浴室の方が部屋から遠く。
まだ歩数も覚えてなければ、壁の形も覚えていなかった。広い家。
けれども「覚えてません」という訳にもいかなくて。黙り込んでいると、足音が遠く消え去った。
タカがいない雰囲気を察して、泣きそうになりながら、記憶を辿りに、壁を伝った。
多分、ここを真っ直ぐだった。
それで、左に曲がった。
そして途中で、壁がなくなる、はず、と。
そう思って、壁がないところを探していた時だった。ガクン!と、何かが足に当たる。
心臓がドクドクと震え、痛みが走り、咄嗟に膝をおった。手を伸ばせば、それは箱のようなもので。
紙…、ダンボールの、ような、…。
きっと誰かが置いたらしい…。
顔を顰め、体をずらし、回り込むように立ち上がり歩み、命綱の壁を探す。腕を伸ばす、けど、私の指先には何も触れることなく。
壁がない。
あれ?と、右側に手を伸ばすけど、そこにもなくて。一気に冷や汗が流れた。
わ、分からない…。
どう壁を…。
壁が。
戻ろう、いったん、浴室に戻って、もう1回と、体を反転させたけど。
さっき右側に手を伸ばした時、体を反転させたような気がして。
また汗が流れる。
戻ろうにも、戻れない。
少し歩けば壁は見つけたものの、ここがどこの壁か分からなくて。
息が乱れた。
一気に、恐怖と不安が押し寄せ、まるで誰もいない宇宙に1人きりで閉じ込められたようだった。
「あ、あの、……すみません…」
小さい声で誰かに助けを求めるけど、その廊下には誰もいない。そうだ、さっきのダンボールらしいものを探そうと床に膝をつくけど、もうそれさえどこにあるか分からなくて。
もう、声を出すのも恐ろしく。
声を出せば、泣いてしまいそうだった。
その場で座り込み、私は誰かを通るのを待つことにした。もしかしたら戻ってきたタカが見つけてくれるかもしれない。
そうなれば、まだ〝1人では戻れない〟って分かってくれるかもしれない。
そう思って待っていた。
けれども、誰もここの廊下を通らない。
もしかしたら今は真夜中で、しばらくの間誰も通らないのかもしれない。
膝を抱えいつものように座り込む。
何分、何十分、何時間。
廊下で座り込んでいた私の耳に、ようやく足音が聞こえ。
ゆっくりと顔を起こせば、その音は鮮明に聞こえる。
誰だろう、この歩き方…タカじゃない…。
そう思っていると、間近になった足音の主は、「……どうした?こんなところで」と、私に声をかけてきた。
その声は、聞いたことがあった。
この前、トイレに行く時、足を怪我してるのか?って聞いてきた人で。
知らないけど、知っている人が現れて…、少し心がほっとした…。
ここはそういう組織だから。
凄く怖い人が通ればどうしようって思ってなかった訳でもない。
「気分悪いのか?」と、しゃがみこんでいる私の傍で声がしたから、多分、この人もしゃがみこんでいるらしくて。
「あ、の、…」と、言った瞬間だった。
我慢していた涙がぽろ…っと流れた。
それは数滴。
宇宙という暗闇で、出会った光…。
「ん?」
「…あ…の、」
「何?」
声が低い…。
それどもそれに嫌悪感はない。
ケイシのしゃべり方は、いつも嫌悪感がある。
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