第9話
私は精神的に、視力を失ったようだった。今まで見えてたものが見えなくなり、恐怖しかない。
タカと呼ばれてた男性が、目線をどこに向ければいいか分からない私を見ながら、「足なくなっても失明はしたくないわ」と、私の手首をつかみながらどこかへ向かっていた。
どこを歩いているか分からない私は、その人に縋り付くように歩く。1歩1歩出すのが、怖い。
「ここ、風呂。服脱いでまっすぐ歩けば湯船あるから勝手につかれ。別に1日ぐらい体洗わなくていいだろ」
そう言われても、戸惑ってしまう…。
ガラガラと、目の前の扉が開かれる。
「向こういるから、はいタオル」
柔らかい物を渡されたけど、見えない…。多分大きさからして普通のタオル…。
遠のく足音がする。
うそ…っと思った時にはもう、足音は聞こえない。
ここは、お風呂らしい…。
手でさぐり、膝をつける。少し先に手を伸ばしたら…床が、とある仕切りの先が濡れていて。
ここが脱衣場で、向こうが浴室だとわかったけど…。ここからがどうすればいいか分からない…。
見えない……。
怖い。
凄く時間がかかった。シャワーがどこにあるか分からないため、湯船のお湯で体を擦った。バスタオルが分からないから、体を洗ったタオルで体を拭いた。
着替えも困難し、「置いとく」も言われて持ってきてもらっても、前か後ろか分からない…。
下着がどこか分からない。
ただブレザーの中にあるバラバラになった写真だけは、着替えたポケットの中に入れた。
私にふれないタカは、「さすがにお尻はふけるでしょ?」と笑いながら、着替えが終わったあとトイレに連れていってくれた。
多分、また、さっきの部屋に戻った。
タカは「なんかあったら呼んで」と、どう呼べばいいか分からない私に言ってくる…。
1人になった部屋は、さっきと変わらず暗い。
見えない…。
光がない。
私、どうなるの?
このまま見えないままなの?
どうして…。
暗い部屋の中で、また、医者らしい人が来た。
昨日と同じ人らしい。その人は私の目を診ると、「昨日と変わりないですね」と、呟く。
「カゲミヤさん、どうにかならねぇか?」
「こればかりは精神的な問題ですので。銃痕ならなあ…。よっぽど酷いことをしたんですか?」
「チッ、」
「まあ休養ですかね」
「どれぐらい?」
「何とも…」
「だるいな…」
医者らしい人が帰ったあと、「ここで世話になる分、お前の借金が増えるからな。利子付きで」と、ケイシは言う。
まだ売り物にはならず、目が見えない私は、男を喜ばれる売り物にはならないらしい…。
ずっと目が見えないまま、借金が増え、売り物にならないか。
目が見えて、売り物になるのかどちらがいいのか。
絶望が襲う。
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