第7話

恐怖が凄かった、暗闇というのは、こんなにも怖いものなのだと。

ジンジンと転んだ膝が痛み、…少しだけ戸惑いがなくなり、布団があった位置からしてあっちが扉だったと、もう一度体を起こした。



手探りで、向かう。

こんなにも部屋の中は広かったのかと、思ってしまうほど踏み出す足の幅は小さく。



扉はあった。

左手ドアノブを握った。

開ける。

開いた。

開いている。

開いているはずなのに、





真っ暗。








汗が止まらない…。

思わず自分の指先を目で見つめる。

見つめているのに見えない。



手の甲で擦ってみた。

なのに見えない。

瞼がヒリヒリと痛くなっただけだった。



これ以上動くことが出来なかった。

ただ怖かった。

何があるか分からない恐怖…。

まだ夢でも見ているのだろうか…。








それから何分たったか分からない。

かすかに音が聞こえた。

「おい」と、その声は近くで聞こえ。


この、声、


慌てて顔を声のした方に向ければ、「なんで外に出てる」と、何かが、私の二の腕を強く引っ張り。

いきなり得体の知れないものに引かれた恐怖から、「うわぁっ」と、声を出しながら遠のいた。

ドン、と背後で何かが背中に当たり、また痛みが走る。多分、また壁にぶつかった…



「何してんだ…」と、また何かが腕を引っ張るから。




「っ、…ま、まって…くらい」と、体の震えが止まらず。

「あ?」と、低いその声は、どう聞いてもケイシで。ケイシは見えるらしい、この暗闇を。

本当に真っ暗なのに。




「で、でんきは、」


「電気?」


「つ、つけて、つけてくださいっ…」


「は?」



目が泳ぐ。



「電気って、…ついてるだろ」



と、ケイシに言われ頭がパニックになる。



「み、みえな…」


「はあ?」


「ま、まっくらで…」


「何、見えない? お前おちょくってんのか?」



強引に引き寄せられる。

顔を上に向かさせる。

それでも真っ暗だから、さっきと視界は変わらない。



「見えないっ…見えないんです、」


「お前…」


「見えないっ…」




また、強引に引き寄せられる。




その時、耳の中にカチ、っていう音が聞こえた。何の音か分からない。身動きが出来ないまま、体を震わせていれば、チリチリと何かが音がして。




変な匂いが、してきて。




「いたっ、…」




頬に何か、よく分からない感覚が訪れ、私は手のひらで抑えた。やけどしたみたいに、ジンジンする。



──…その瞬間だった、体が床に落とされ。膝と手のひらが地面に着く。そのまま何かに肩を押され、強い力が両肩を掴む。



なに、分からない…。

何が起こってるか分からない。体が痛い…。

手探りで、腕を動かせば、何かの柔らかいものにあたる。


服?


これは…。






片方の肩が軽くなる。



そうすれば、──…パキンと、音がした。




なに、今の音はなに?


その瞬間、ひゅっと風が吹いたような気がして。



ガタガタと、体が震える。




「あ、あの、…ほんとに、…」


「……」


「見えない、……、暗い…」


「……」


「け、ケイシ…さん、い、いないんですか…」


「……」


「だ、だれ、…」


「……」


「お、ねがいです…あかりを…」





もう片方の方も軽くなり、痛みが和らぎ、泣き声で言えば、「……マジかよ……」と、少し戸惑った声が聞こえた。



「あ、あの…」



返事はない、でも、ケイシの声だった。



しばらくすると、「……俺だけど」と、またケイシの声が聞こえ。






「今日売る女、欠陥品だった。目見えなくなってる」



「ああ、ライター近づけても、ナイフ目に突き刺そうとしても…瞬きひとつしねぇ」



「精神的だな…」



「だりぃな、売れやしねぇ…」

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