第5話

その部屋に押し込まれた私は、少し転びそうになった。苛立っている雰囲気のケイシは、部屋の明かりをつけたあと、「逃げるなよ、トイレしたかったら床でしろ」と無茶苦茶なことを言いながら部屋から出て、扉を閉めた。



部屋は、6畳ぐらいの大きさだった。



その部屋の端には、布団が1式積まれてあった。

窓はあるものの、さっきの玄関の監視カメラのことを思い出せば、逃げる気にもなれなかった。

ここは、そういう組織だから。

もし逃げて捕まれば、もっと酷いことになるかも…



床に座った。

今更ながらに、足が震えていることに気づいた。もしかしたらここは、〝売り物〟の部屋なのかもしれない。きっと私以外にも、何人かこの部屋に入ったことがあるのだろう。


そう思うと、凄く悲しい気持ちになった。




布団があるものの、横になって寝れるわけなくて。

私はずっと膝を抱えて座っていた。

この座り方だとパンツが見えるとか、そんなの考える余裕もなく。



ブレザーのポケットから、1枚の写真を取り出す。背景が綺麗な写真…。私の宝物。



それをずっと見つめていた。気づけば朝になっていて、突然開かれるその扉に目を見開きながら顔をあげた。

そこにいたのは、昨晩、私をここに連れてきたケイシ。



ケイシは私を見下すように目を細めると、「何それ」と笑いながら、私の手に持っているものを取り上げ。



慌てて私は、「か、返してください…」と座りながら手を伸ばすけど立っているケイシには届かない。ケイシは写真を見て笑い、「いーや」とそれをヒラヒラと揺らす。



「どーしたのこれ、私物はないって聞いてるけど」


「お願い…返してください…」



自分を恨んだ。

見つからないように、隠せば良かったと。



「これ、どんな価値あんのよ?お前の借金ぐらい?2000万?」


「…かえして…」


「これ、俺にくれたら、借金チャラにしてやるよ?どうする?」


「……やめて…」


「なーんてな?こんなの何銭にもならない」





目の前が、真っ白になる。


嫌な音が鳴る。


ヒラヒラと、それは何枚にもなって、宙を舞い。



私はそれを必死に拾った。

1枚、1枚。

破れたそれを。

その光景を冷たく見下ろすケイシは、私に近づきその1枚を足で踏む。




「お前の働く場所、決まったから。明日の朝そこに連れていく。変な夢見ようとするな」




そう言ったケイシは、「トイレ、この部屋出て右奥。勝手に行け」と、また部屋を出て扉を閉めた。





散らばった宝物を見ながら、私はここへ来て初めて涙を流した。

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