第4話

私は下を向きながら歩いていた。どこに向かっているんだろう、この家の中は広かった。

しばらく喜ばせなくていいって言ったのに、外国って…とそんなことを考えながら、歩いている時だった。




「──…こんばんは」


前で歩いていたケイシが立ち止まり、誰かに話しかけた。ケイシが私の前に立ち、私も下に顔を向けているからその人は見えず。


「…どうも」と、返ってきた言葉は、やけに低かった。




「組長なら、事務所ですよ?」



多分、声のトーンからしてケイシは笑ってる。



「いえ…。西田さんに用事があったので…」


「あーそうですか。だけど部外者が、あまりここには来ない方がいいのでは?お父さんが心配しますよ」


「…」


「あ、すみません。組長の孫なのに部外者は、失礼でしたね」


「…用が済んだので帰ります」


「はい、そうした方がいいですね」




やけに声が低いその人は、私の横を通り過ぎようとし、たけど。

この家の中に、多分、この組織の一員ではない私がいるのがおかしいとでも思ったのか、下を向いている私の前で止まり、



「どうしました?この子、気に入りました?けどダメですよ?売り物なので」



多分、雰囲気からして、声の低いその人は、ケイシの顔を見た。



「……売り物?」


「なんですか、その顔」


「…」


「借金した女が、自分を売るって当然ですよ。味見します?少しなら目を瞑りましょうか?」


「学生なのにか?」



どこからどう見ても、制服を着ている私を見て、信じられない声を出す…。



「今日、卒業したんで。18も超えてます、問題ありません」


「…学生が、借金…?」


「しつこいですよ、帰らないんですか?」


「……」


「そういえば、1年?2年ぐらい前に、あなたも組長からマンションを借りてましたね。あれ、用意したの俺なんですよ?」


「……」


「そういう金も、こういう〝売り物〟から出てること、お忘れないようお願いしますね」



軽く笑ったケイシは、私の肩に腕を回してくると、もう話は終わりなのか奥へと進む。




奥へとしばらく歩いた時、「世間知らずの孫だなほんと」と、苛立ったように呟くケイシに、体が震えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る