第3話

正直、私はこのまま〝夜のお店〟に連れて行かれるとばかり思っていた。けれども真っ白な車が到着したのはどこかのお家。


その玄関にはセキュリティなのか、防犯カメラみたいなのが数箇所にあった。


隣の男性が車から降りようとした時、玄関から出てきたらしい若い男性が、その隣に座っていた人に近づく。



「ケイシさん」と、その人らしい名前を呼びながら、何かを耳元で喋ってる。



ケイシと呼ばれた私の隣に座っていた男性は、その耳打ちの内容がお気に召さないのか、あからさまに眉を寄せた。




「それで?」


「──…、──と、」


「…めんどくさ…」


「こればかりは…」


「…りょーかい、しばらく待機な」


「すみません、お願いします」




ケイシと呼ばれた人はまだ車に乗っている私を見るように、少し前かがみになりながら、わざとらしく微笑んだ。



「良かったな、まだ喜ばせなくていいってさ」



喜ばせなくていい。

私に言ってるらしいその言葉。

その言葉が〝男の人の相手〟との事だと理解した時、私は間違いなく安心していた。




それでも、車からおろされ、その家…のような、広い玄関をくぐれば大きな提灯が飾られていた。

その家の名前…。ううん、この組織の名前の入っている提灯があり。

その提灯を見てから、急に不安が押しせた。



〝帰りたい…〟



もう、帰る場所なんて、無いのに。




どこかへ向かっているらしい。ケイシの後ろを歩く。私よりも背の高いケイシは、「よくさあ」と、笑ってる。




「こーいうとこ連れてこられて、組長とか〜若頭とかと恋〜♪とか、ドラマでそういうのあるけど、そーいうの、有り得ないからな?残念ながら」


「…」


「この世の中金なのに、金を好きになるって言ってるようなもんなのにな?まあ俺は金好きだけど」




そういって、ケイシは少しだけ後ろに振り向いた。



「まあ、俺は優しいから教えてあげる」


「…」


「助けてとか、帰りたいとか、今からそういうのは一切禁句。薬使って従わせることも出来るし、下手したら外国行き。…おとなしーく言うこと聞いて俺らが紹介したとこ行けばいいよ」


「…」


「分かった?」




にっこりとした笑顔で言われ、私は頷いた。




「まあ、君は外国行きなんだけどね?」




それに対しては頷くことが出来ず、ふっと、私の反応を見て鼻で笑うケイシは、「おもろ」と、前を向き直した。




涙が出そうだった。

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