第2話

──こういうものは、黒色だと思っていた。


映画でもドラマでも、たまに映っているニュースでも、黒色だったから。

だから私の中のイメージは、黒だった。

だけど中が見えないように窓にスモークが貼られ、高級車っぽいのはイメージ通り。

この窓は防弾ガラスとか、そういうものなのだろうかと思いながら窓の外を見ていた。


真っ白なセダンタイプの車の後部座席に乗っている私に、「やけに、」と話しかけたのは、私をこの車に連れ込んだ男だった。



多分、横に座る男性は若いのだと思う。

けれども私よりは年上…。

そう思うのは、真っ黒なスーツを着ているからか…。



「静かなのな?」



少し笑いながら言われ、私はその男性の方に目を向ける。



「慣れてますから…」



住む場所が代わるのは。

いろんな所を行ったり、来たり。

落ち着いた声でそう言ったものの、内心は泣き出しそうだった。

けれども分かってる。

騒いでも無駄だと。




「前の女は、泣いて、お家に帰りたいって言ってたけど。お前はその〝お家〟が無いのか」




クスクスと笑う、黒い髪をした人。

どちらかというと二重で、中性的な顔をしている。だけども男性だと分かるのは背丈とか、声のトーンとか、髪の短さのおかげ。



「慣れてるって言っても、今から行くのは親戚とかそういうのじゃないよ?掃除してればご飯をくれるとか甘い場所じゃない」



静かにその人を見つめていれば、「男を喜ばせると、お金をくれる場所」と、にっこりと笑う。


笑っているのに、その顔は笑ってない。




「…分かってます」




私も眉を下げ、少しだけ口角を上げて笑った。そうすれば男はつまんなさそうに「…ま、頑張って」と顔を逸らし前を見つめた。




私も窓の外に目線を戻す。


窓の外は、明るいイルミネーションで賑わっていた。

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