第77話

「やめるにしても、胡桃の荷物、置いたままだろ?」



それはそうだけだど。

取りに行かなきゃだけど。


「··········」


「胡桃、そんな顔するな、お前らしくない」



お前らしくないってなに?

大駕の瞳に、あたしはどう映ってるの?

今までのあたしはどう映ってた?



「·····ごめん」


「胡桃」


「大駕のこと、大切なのは変わらないから·····」


「分かってるよ」




大駕はあたしのことを‘想って’くれてる。けど、あたしは大駕に答えることが出来ない。



あたしの横に来た大駕は、「もういい」と、いつもみたいに頭を撫でてきた。


妹みたいな扱い·····。



「大駕·····」


「なんだよ」


「ほんと·····、禁煙続かないよね·····」


「うるせぇよ」



笑った大駕に、あたしも笑った。


結局、大駕に「持ってろ」って言われて。

大駕の部屋の合鍵は、あたしの鞄の中に収まった。



でも、きっと

荷物を取りに行くという用事が終われば、私がこの鍵を使うことはもう無い。

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