第74話

私は昴さんが話しかけてきたことよりも、もう歩きだしてこの場から離れようとしている黒髪の男の方が気になって仕方がなかった。



「大丈夫です⋯」


「何かあった?」



何か?

絡まれているところを、良くんが助けてくれた。ただそれだけの事。



「いえ⋯」


「うそっ、昴さん!?こんにちわ!!」



その時、トイレから出てきた莉子が、昴さんを見た瞬間ハイテンションで近づいてきて。



「こんにちは」



穏やかそうに笑う昴さんはやっぱりかっこよくて。

きゃあきゃあと騒ぐ莉子。


でも、私は昴さんの方ではなく、視線を横に向けていた。

もう見えなくなった背中⋯。



お礼さえも言えていない私は、どうして良くんが「近づかない方がいい」と言われているのか考えていた。


今まで何度も思ったこと。


たくさん考えても、導く答えは出なかった。

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