第68話
壱成さんが言っていた週末の金曜日。
壱成さんから22時頃に帰ると連絡が来た。
私はご飯を食べた後、入浴し、壱成さんが帰ってくるのをリビングで待っていた。
ニュースを見ながら時間を潰していると、22時前に自宅のインターホンが鳴った。
壱成さんが帰ってきたのかな?と、そう思うのに時間はかからなかった。
でも、おかしいとも思った。
壱成さんなら鍵を持っているはずだから。自分で開けるはず……と。
そう思ってドアのスコープから覗けば、そこにいたのは間違いなく壱成さんだった。だけど、その横にはもう1人男性がいて。
ドアスコープを見る限り、その男性は壱成さんを抱えているようだった。
抱えているといっても、壱成さんの腕を自らの肩に回すように体を支えている状態で。
壱成さんが、意識を失っているように見え、焦った私は鍵を開けた。
扉を開ければ、「──あ、こんばんは」と、苦笑いをする男性がいて──……。
「すみません、壱成さん、酔ってしまって」
綺麗な顔立ちの彼は、多分、壱成さんが今まで飲んでいたという後輩なのだと思う。
笑いながら言った男性は「運んでもいいですか?」と、顔を傾けた。
「あ、あの、意識が無いように見えるのですが……」
「ああ、壱成さん、酔うとこんな感じで…」
酔うとこんな感じ?
「今日、何年かぶりに飲んだみたいで。腹減ってたし余計に酔いが回ったのかもしれません。ビールも2杯だけですし」
何年かぶりに飲んだ?
お腹が空いてると酔いやすいの?
「だ、大丈夫ですか……? 救急車呼んだ方が……」
「大丈夫ですよ、今も半分寝てるだけですからら」
にこりと笑った男性は、「運んでいいですか?」と、不安になる私に呟いた。
体格の違う壱成さんを私には運ぶことが出来ない……。
「はい、」と頷けば、「お邪魔します」と男性はさっきまで私が休んでいたソファへと壱成さんを連れていく。
こんなにも意識がない壱成さんを見るのは初めてで、心配になる私は壱成さんの顔を見つめた。壱成さんは、寝息を立てて眠っていて……。その表情を見た私は、ほっと安心の一息を着いた。
「すみません……送って頂いて……」
「いや、俺の方こそ。今日は無理に誘っちゃったから」
「私、酔われている人の介抱をした事がなくて。何かした方がいい事はありますか?」
「大丈夫だと思いますよ、壱成さんは酔いが覚めるの早い方ですし。あと1時間ぐらいしたら起きると思いますよ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「いえ、じゃあ俺はこれで」
「ありがとうございます、あの、お名前をお聞きしても……?」
「矢島です、矢島昴」
「矢島さん、本当にありがとうございます」
綺麗な顔つきの矢島さんは、顔を弛め笑ったあと、「いつも、」と、眠っている壱成さんの方を見て呟いた。
「彼女の作る料理が美味しいって、自慢してきます」
そう言った矢島さんは、今度こそ、「では失礼します」と、家から出て行った。
私は酔って寝ている壱成さんの元へ歩き、壱成さんを見つめた。
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