第69話

さっきの人が言っていたとおり、壱成さんが起きたのは23時頃だった。私はずっと壱成さんを見つめていた。

虚ろな目の壱成さんと目が合った時、自然な動作で私を抱きしめてきた壱成さんは、「……すばるは……」と、小さく呟いた。



「壱成さんを送ったあと、帰りましたよ」


「……」


「壱成さん、あの、体は大丈夫ですか?」


「……うん」



なんだが甘えるように私を抱きしめる壱成さんは、私の首筋に顔を埋めた。

まだ酔っているのか、壱成さんの唇がやけに熱くて。



「熱いです……、壱成さん、熱があるのでは……」


「…ない」


「布団に行きますか? お風呂に入りますか?」


「すばる……、なんか言ってたか?」



何か?

何かは──……



「いつも、私が作る料理が美味しいと自慢していると言ってましたよ」



ぴくりと、私の首筋から唇を離した壱成さんは、少し顔を起こし私の目を見つめてきた。




「いつも女の自慢してるのは、あいつの方だろう……」



自慢しているのはあいつの方?

一体どういう意味か。

よく分からないことを呟いた壱成さんは、私と唇を重ねた。



「楽しかったですか?」


「うん?」


「遊びに行って、楽しかったですか?」


「……うん、でももう、暫くはいいかな」


「どうしてですか?」



やっぱり、私がいるから?



「……これからも、誰かと外食してきていいですよ?」


「いや、いい」


「……行かないのですか?」


「……──家に帰ったら美味い飯があるのに…」


「……え?」



壱成さんの声が小さくて、上手く耳に届かず。



「──昴、かっこよかっただろう?」



そう言った壱成さんはまた、私を抱きしめた。



「さっきの人ですか?綺麗な方だと思いましたが……かっこいいとは……」


「そうなのか?」


「私がかっこいいと思うのは、壱成さんだけですよ」


「……」


「壱成さん?」


「やっぱり、呑むんじゃなかった…」


「え?」


「佳乃が話す男は俺だけでいいのに……」

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