11(SS)
第67話
壱成さんは、我慢していないのだろうか?
最近、特にそう思うようになった。
一緒に買い物に行っても、毎回私に「佳乃は何が欲しい?」と聞いてくる。
何が欲しいと言われても、特に欲しいものは無くて。
食材とか日用品で欲しい物はあるけれど、私個人で欲しいというものはなかった。
「特にないです」と壱成さんに伝えれば、壱成さんは「遠慮しなくていい」とまた言ってくる。
「壱成さんは、何か欲しい物はありますか?」
そう聞いても、壱成さんは「俺はいらないよ」
と顔を横に振る。
壱成さんはよく私に対して物欲がないと言う。でもそれは壱成さんにも言えることだった。
壱成さんは仕事へ行ってもすぐに帰ってくる。
誰かと食事に行ったりもしない。
一緒に暮らして1年。ずっとずっと私の事ばかり考えてくれる壱成さんが大好きだったりするけど、私の為に働き、仕事のない日は私の傍にずっといてくれる壱成さんは、ストレスが堪らないのだろうか?
友達と遊びに行ったりしなく、私を1人にしないようにしてくれる壱成さんには、自由の時間が無い気がして。
壱成さんに友達がいないのだろうか?と、考えたこともある。だけどそれは無いと考えた。こんなにも優しい壱成さんに友達がいないわけがない。
だとしたら、私のせいで友達と遊べていないのではないか……?我慢しているのではないか。
同棲し始めて1年、今更になってそれに気づくなんて私はなんて愚かなんだろうかと考えていた。
そんな矢先のことだった。高校を卒業をした翌月の4月。壱成さんが本当に申し訳なさそうに「今週の金曜日なんだが──……」と、朝食を食べている最中に言ってきたのは。
金曜日と言われても、特に思い出す用事は無かった。壱成さんとどこかへ出かける用事も無くて。
「金曜日ですか? 何かありましたか?」
「いや、──…呑みに行ってもいいか?」
のみ……?
呑みに?
それはお酒を呑みにという事だろうか?
ということはつまり、誰かとご飯を食べに行くということ?
同棲して1年、壱成さんが誰かとご飯を食べに行くなんて初めてで。
「はい、夜ですよね?」
「ああ…、だからその日、佳乃の飯が食えないというか……」
私の飯?
「あ、そうなのですね」
「た、食べたくないって言ってるわけじゃない。むしろ食べたい」
「はい、お酒を飲んでくるんですか?」
「そうだな…多分呑んでくる」
「壱成さん、20歳になりましたもんね。お酒飲めますもんね。家でもこれからは飲みますか?」
「いや、佳乃と付き合ってからは普段は呑まないって決めてる」
付き合ってから……?
付き合ったのは、壱成さんが18歳だったと思うけど……。昔は飲んでいたという事だろうか?
「どなたと行くんですか?女性の方もいるんですか?」
「それはない、女と行くわけない。今後一切それはない!」
焦ったように言う壱成さん。
「後輩というか、高校の時の後輩が、俺が行ってる仕事先に入ってきて。その祝いというか」
「そうなのですね、歓迎会ですか?」
「ああ、歓迎会は別であるんだが、歓迎会の日に夜勤が入って。俺は参加出来ないから」
「分かりました、行ってきてください」
「なるべく早く帰ってくる」
「どうしてですか?ゆっくり楽しんできてください」
私は笑って壱成さんを見つめた。
「…──いや、帰るよ。俺が佳乃に会いたいから」
せっかく壱成さんが遊びに行くのに……。
もう少しゆっくりしてきてもいいのに。
私のために早く帰ってきてくれるらしい壱成さん。
せっかく、壱成さんの自由な時間なのに。
私は、壱成さんを縛り付けてしまっているのだろうか?
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