第63話

「本音を言うと、今すぐ抱きたいと思ってる」



壱成さんの本音。

照れたように言う壱成さんは、セミロング丈になった私の髪を撫でた。



「俺は今まで、あんたにキスも、抱きしめたりもしたが、実際は……なんていうか、セーブっていうのか?」


「セーブ?」


「キスで言うなら、ふれるだけで終わってる。そこまでのセーブを今までしてきた」


「……あの、よく分かりません」


「キスにも色々種類があって」



種類?



「ふれるだけとか、舌を入れるとか」


「……舌、ですか?」



まだ壱成さんの言っている意味が分からず、私は首を傾げた。

今までしていた壱成さんとのキスは、数種類あるうちの1つらしい。



「そういうのもしたいと思ってる」


「口腔内に舌を入れるということですか?」


「ああ」


「それは壱成さんの舌ですか?私の舌も壱成さんの口腔内に入れるのですか?それともどちらとも?」


「…初めは俺からだと思うが……」


「私は入れなくていいのですか?」


「入れてほしいとは思ってる」


「私も入れるのですか?」


「あ─…、なんというか、言い方が難しいな…」


「そうなんですね、分かりました」


「分かりましたって、」


「では、今日からそのキスでお願いします。体験してみないとこればかりは……」


「ちょ、ちょっと待て」



壱成さんが慌てたように止める。



「え?」


「いや、そのキスも、……ホテルでと思っていたから」


「今日はしないのですか?」


「さっきも言ったように、ずっとセーブというか、あんたに手を出さないように必死に我慢していたから」



……我慢……。



「一緒に寝るだけでも理性を失いそうだ」



……理性……。



「だから……」


「壱成さん」


「…ん?」


「こう見えて、私もずっと我慢していたんです……」


「…」


「……抱くのは、いやですか?」


「……」


「舌を入れるのは、上手くできないかもしれませんが、」


「……佳乃」


「壱成さんのベッドがいいです……」


「佳乃」


「ずっとずっと、これからも壱成さんのベッドがいい……」



恥ずかしくて、これ以上言えなくて。

黙って壱成さんを見つめていれば、壱成さんの顔が近づくのが分かった。



「本当に止まらないかもしれない」



壱成さんの声が、低く甘い。



「……そ、それは、最後までするという意味ですか?」


「いいのか?」


「は、はい、」


「本当に止まらないぞ」



壱成さんの整った顔が近づく。



「あ、あの、初めては痛いというのは……本当でしょうか、私それも聞きたくて……」



まさか今からするなんてと、誘ったのは私の方なのに、あたふたとしてしまう。

今からするのだろうか?

私はキスをできるのだろうか?



「ああ、ちゃんと舐めるから大丈夫」


「舐め……?」



キスの時と同様に、壱成さんの言っている意味が分からず。

痛みがあっても舐めるから大丈夫とは?


──どこを舐めるんですか?

その質問をする前に壱成さんに唇を塞がれていた。



抱き寄せられ、キスをしやすいように顔を傾けた壱成さんは、唇を離すと「口を開けてくれ」と私に呟いた。言われた通りに開くと、柔らかく、少し暖かい、湿った未知の感覚が口内に入ってきた。


壱成さんの言う、キスの種類が分かった時にはもう顔が真っ赤になっていたような気がする。さっきは私からも舌を入れた方がいい?と聞いておきながら、壱成さんの深いキスを受け入れるのが精一杯で。今自分が何をしているのかも分からなかった。

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