10(SS)

第62話

壱成さんがお父さんと約束したのは、私が高校を卒業するまで約2年間、性行為をするなというものだった。

学生の間は妊娠してはいけないというお父さんの気持ちも、分かったつもりで。

それでもやはり、男女が住めばそう言った雰囲気にはなってしまう。

特に壱成さんは私に対してすごく甘く、キスをしてきたり、抱き寄せてきたりする。

私は壱成さんとキス以上の関係になりたいと思ったりもした。それでも壱成さんが我慢しているのならと、そういう性的なものは口にしなかった。

雑誌やネットなどで調べてみても、男の人は性的な行為が好きとあった。

──だから、壱成さんはすごく頑張ってくれたんだと思う。

高校を卒業する日に、私は壱成さんに抱かれたいと思っていた。



なのに。



「どうしてですか?」


「その……なんだ、そういう約束だったが卒業したその日っていうのも」


「でしたら、今日はしないのですか?」



風呂上がりの壱成さんは、しないと言う。

すると思っていた私は、少し落ち込み気味だった。



「いや、もしするなら、思い出というか……」


「思い出?」


「…思い出として初めては、夜景の見えるホテルとかでって思っていた」


「……夜景の見えるホテル?」


「どこでもいいんだ、旅館でも」



壱成さんは、2年間同棲したこの部屋ではなく、どこか別の場所で性行為をしたいと言う。



「それは、普通の事ですか?」


「ん?」


「周りの人の性行為なんて、普段は話しませんから。他の人も、初めてはホテルや旅館へ行くのですか?」


「いや……、それは人によると思う。大抵は家が多いんじゃないか?」


「でしたら、ここじゃダメですか?」


「ここ?」


「私、壱成さんのベッドで寝たことがありません。いつも寝室は別々でしたから」


「ああ、」


「寝てみたいです」


「じゃあ、今日は一緒に寝て、休みの日に泊まりでどこか行くか?旅行っていう旅行もしてなかったし」



壱成さんはどうしても、この部屋で性行為はしたくないらしい。



「私、楽しみにしていたんです」


「うん?」


「壱成さんが、私のためを思って、思い出作りの場所を考えてくれているのは分かっているんですが……」


「うん」


「やっと今日から壱成さんに、たくさん抱きしめてもらえると……。あ、いつも抱きしめてもらっていますが、なんというか、別の意味というか…ベットの上で朝まで抱きしめてもらうのって、私が家に帰りたくないと言った日以来じゃないですか……」


「……」


「だから楽しみにしていたんです」


「うん」


「……恥ずかしい話ですが、」


「うん」


「今日からいっぱい、キスしてもらえると……」


「……──」


「……残念です」



今日はしないのならと。

いつ、ホテルに行きますか?と、聞こうとした時、「俺は、」と、少し耳を赤くした壱成さんが口を開いた。

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