第14話

私と友達になりたいらしい壱成さんは、明日の朝も私と会ってくれるらしく。この日の朝は、「夜、連絡待っています」と微笑んで言った後、壱成さんとは別れた。


学校に置いたままだった菓子折をお母さんに見つからないように持って帰り、夜は壱成さんの電話を待った。でも、男性と連絡をとっていることに気づかれればきっとお母さん達は怒るだろうから、リビングにいる間はスマホが見ることができず。


お風呂に入り、夜ご飯を食べ、「勉強してくる」と自室に戻ったのは20時頃で。スマホを見ても壱成さんからの電話はなく。

壱成さんから電話が来たのは、22時頃だった。



『──俺だけど』



壱成さんの声は、電話越しだと低い。普通の時も低くは思うけど、なんていうか、落ち着いたトーンというか、簡単に言えば耳に入りやすく。



「はい」


『今、電話しても平気か?』


「はい」



私は壱成さんの電話を待っていた。



『──…何してた?』



壱成さんの電話を待っていたんです。



「勉強をしてました」



でも、それを言うのは恥ずかしく。



『勉強?…悪い、また後でかけ直そうか?』


「え?あ、大丈夫です…!壱成さんの電話を待っていたので!」



でも、壱成さんが電話を切ろうとした焦りか、慌ててそう言ってしまった。ああ、私は本当にバカ…と、スマホを握りしめた。



『…申し訳ない、もう少し早く電話をすれば良かった』


「そ、そういう意味ではなくて」


『……』


「ま、待っていたのは本当ですが、」


『うん』


「壱成さんは悪くないです。電話、嬉しいです」


『──…うん』



ああ、やっぱり電話越しでも、壱成さんの声は低くて柔らかい。



「壱成さんは優しいので、その…悪くは捉えないでください」


『…優しいのはあんたの方だと思うけど』


「え?」


『いつも俺の事を考えてくれてるだろう?』



俺の事?壱成さんのことを?

お礼したい気持ちだろうか?

そう言われるとそうかもしれない。

けど、それは当然のことだから。

私は優しいのだろうか?



『それに、ずっと思っていたんだが』


「?」


『敬語じゃなくていい』


「え?」


『敬語じゃなくていいよ』



そう言われても、壱成さんは年上で…。あれ、どうして年上だと思ったんだろう?私は壱成さんの年齢を知らない。ただ同じ高校生とだけしか知らない。もしかすると壱成さんは同じ学年かもしれない。


だけども壱成さんは介抱してくれた恩人だから。やっぱり敬語を外すのは…。だけど、壱成さんは私と友達になりたいらしく。



「親に、年上の方には、敬語と言われていて」


『うん』


「壱成さん私より年上ですか?」


『年上だけど、いい。朝も言ったけどあんたと親しくなりたいから』



親しくても、親しい仲にも礼儀ありという言葉がある。



「壱成さん、私が年下だとご存知なのですか?」



年齢の話など、壱成さんとしただろうか?



『2歳、離れてることは知ってる』



そう落ち着いて言うから、もしかしたら私が貧血で倒れた時に、私自身が言ってしまったのかと思い、特に気にもとめず。



「2歳差…?」


『そう』


「だったら、尚更敬語を外すのは…」


『うん、慣れてきてからでいい』


「……」


『…悪い、あんたを困らせるために言ったわけじゃないんだ』



黙り込む私に、壱成さんが焦ったように呟く。



『また、明日の7時に。勉強頑張ってくれ』

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