第13話

「渡したいものって?」



言ってもいいのだろうか。壱成さんはいらないと言わないだろうか?でも1度、壱成さんはピンク色の紙袋のお菓子を受け取ってくれてるから。



「……お礼のお菓子を」


「お菓子?」


「はい……」


「…気持ちは嬉しいが、受け取れない。それに俺はもうお礼は貰った」



受け取れない、どうして?

この前は受け取ってくれたのに?

貰った?

いつ?

私はまだ壱成さんに渡していない。

戸惑いながら壱成さんを見つめれば、壱成さんは私が渡した封筒を胸の位置の高さに持ってきた。



「その、なんというか、気分を悪くしないでほしいんだが」


「…え?」


「俺はあんたの言葉だけで十分と言うか」


「…言葉ですか?」


「物よりも、手紙とかの方が嬉しい」



手紙…?

言葉…。

手紙が、お礼の品物っていうこと?

手紙の方が嬉しい…。



「私の手紙ですか?」


「手紙とか。毎日少しでも連絡が取れたらなって思ってる」


「毎日、手紙を書くのがお礼ということですか?」


「いや、…なんつーか、電話でもなんでも」


「…電話…、お礼で電話をすれば、壱成さんは嬉しいのですか?」


「お礼というか、……言い方が難しいな。」



難しい?



「明日、お礼のお菓子を貰ったらそれで終わるだろう?」



終わる?



「あんたとの関係が」



私との関係?



「あんたとはこれからも、親しい仲になれればいいなと思ってる」


「親しい仲、というのは友達という意味ですか?」


「そう思ってくれていい」



私と壱成さんが友達?

元々、助けてくれて知り合った壱成さん。

あの傘の出来事が無ければ、知り合うこともなかった男性。

そんな壱成さんは、私と友達になりたいらしい。



「…分かりました、今日の夜、連絡します」


「いや、俺からする」


「壱成さんから?」


「ああ」


「……分かりました、」


「都合の悪い時間があれば教えてくれ」


「あの、壱成さん」


「うん?」


「電話などがお礼ということは、明日の朝は会えないということですか?」


「え?」


「その、菓子折を渡す予定だったので、明日も壱成さんに会えると思っていたんですが、」


「……」


「会えないのでしょうか…?」


「……」


「……私、会えると勝手に思っていたので」


「……いや、」


「…菓子折を持ってきてはいけませんか?」


「……」


「…わたし、」



ゆっくりと壱成さんを見上げれば、壱成さんは戸惑っている顔はしていなかった。ただ、私の方をじっと、見つめていて。

だけど、私と視線が合えば、その瞳は私からそらされた。



「会ってくれるのか?」


「え…?」


「いや、なんだ…すげえ嬉しい」


「……」


「…俺も会いたい」



そう言った壱成さんの顔はよく見えなかった。

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