第93話

頭のいい世那は、また考え事をしているのか、口許に手を置いた。



そして口にする。



「いないんだよね」と。




「⋯え?」


「若い男で、泣き黒子って、ここの医師にいないんだよ」


「え?」



いない? でも、そんなはずない。

私は確かに話しかけられた。


じゃあ、あの人は医師じゃなかったってこと?


いやでも、ちゃんと白衣を着ていてから。




「今日の朝、本部に行ったんだ」


「本部って、メビウスの?」


「そう」


「⋯何か分かったの?」


「本部にいた女、犯し⋯、いや、話聞いて。魁輝の弟と、頼ってやつのこと」


「⋯⋯」


「そしたらその2人はもう2週間前に建物から出たって、言ってきて。消息が分からないって言われたんだ」

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