第92話

あの時は、すごく気分が悪かったから。

吐くのを堪えるのに必死で⋯。



あ、でも⋯




「眼鏡かけてた⋯」


「眼鏡?」


「あ、と、それから⋯。ここに泣き黒子あったよ」



私は、自分の指先で目の下をさす。


それを聞いた世那は凄く険しい顔をして。



なぜ険しい顔をするか分からない私は、黙り込む世那に、顔を傾ける。



「世那さん⋯?」


「それ、いつの話?」



いつ?


いつ、だったかな。



「2週間、ぐらい⋯前」



だったと思う。



「その人、名札とかつけてた?」



名札? その言葉に、もう一度首を傾ける。


そこまで見る余裕が無かったからと、私は「覚えてない」と口にする。

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