第82話

「柚李さんが総長って…」


「そしたらナナは月ちゃんをきっと意地でも解放するだろうし?月と別れろって流雨に言うだろうなぁ。そうなったらもっと険悪になるかもあの二人…それはちょっと困るかも」


「…」


「俺は月ちゃんいなくなってもいいけどね。護る対象が総長だけでいいから」


「…」


「って感じで考えてたけど、たぶんこれはナナが無理だって言うと思う」


「…」


「あいつは俺の犬だから、近衛隊長をやめない」


「…」


「ずっと俺よりも下の位置…」


「…」


「馬鹿なんだよな…」


「よく、分からない…。晴陽は何をしたいの? 私を脅して…。もし柚李さんが総長になれば、晴陽の脅しが無くなるって事でしょ…?」


「そういうことになるかも?」


「それが晴陽の目的なの?」


「いや? 全然? 俺は目的の為に総長になったんだし辞めるわけねーよ」


「…じゃあなんで柚李さんが総長って言うの?変わる気なんて無いくせにっ…」


「さあ、」


「晴陽…」


「分かんねぇけど、」


「…」


「そういう未来もいいなって思っただけ」


「…?」



そういう未来?




「頭のどっかで、やめとけって、思ってるのかもな」




そう言って瞼を閉じた男。



──…やめとけ?


やめとけとは…?




「……なにを?」




静かに、晴陽の目が開く。

そんな晴陽は斜め下に目線を向け私を見ていない。




「月ちゃんはさ、」


「…」


「人を殺したいって、気持ち、芽生えたことある?」



殺したい…。

静かにそれを告げる晴陽は、珍しく煙草を吸っていなく。

いつもとは違う雰囲気に、私は上手く声が出なかった。



「…あ、るよ、すごく晴陽をころしたい…」



私の言葉にくすくすと笑う晴陽は、「そうだよな」と呟く。



「俺も殺したいんだぁ」


「はるひ…?」


「すごく殺したいやつがいる」


「何言ってるの…」


「そのためなら何だってする…」


「…ねぇ、」


「月ちゃん」


「ほんと、何…」


「俺を止めてよ。俺よりも先の未来読んで、俺を止めて」


「わかんないよ…何言ってるの…」


「ね、ほんと、何言ってんだろうね。忘れて」



ふふ、と、笑った男は煙草に手を伸ばす。


かち、とそれに火がつけば、漂ってくる煙の香りが鼻の周りを包んだ。




「ごめんね、さっきああ言ったけど、総長は譲る気はねーよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る