裏切りのユダ 本編 【完】

第81話

え？という顔をする私に、晴陽は続ける。

「だってそうだろ？ 近衛隊長だから月を護ってる。家に帰れない」

確かに、そう。

柚李の仕事は総長と姫を護る事だから。

もし、近衛隊長という役職が無くなれば、柚李は真っ直ぐ家へ帰ることができる…。

「やめさせればいい」

「…そんなこと、できるの？」

「無理だな。普通は」

無理？

無理なの？

じゃあどうして私に喋ったの？と眉を寄せた。

「本来、近衛隊長っていうのは総長よりもケンカが強い男がなるって決まってる。総長より弱かったら護ってる意味ねぇからな」

「…」

「かといって強いだけじゃ無理、裏切る可能性があるやつをそばに置くことなんかできない」

「…」

「ケンカが強くて安心して背中を任せられるっていうのが柚李しかいないんだよ」

〝柚李〟…。

「だから近衛隊長はあいつしか無理、ってわけ」

柚李しかできない…。

近衛隊長をやめられない…。

「流雨と、御幸…さんは、強くないの？」

「強いよ、けど俺よりも下だし。御幸はチャラいしあんな性格だから一人の子を護るって事はしない。流雨だってそう、今は月一筋だけど、他の奴らには容赦ない、あいつは〝総長〟が護れない」

一人の女の子を護れない御幸…。

私だけを守り、総長を護れない流雨…。

「じゃあ柚李さんをやめさせるなんて出来ないじゃない…」

あんなことを言っておいて。

結局は変わらないってこと。

また私の心を弄んで楽しんでいるらしい。

「それがあるんだよな」

「……もういい」

「ひとつだけある」

「…また罠でしょ…」

「俺を総長から降ろせばいい」

は？と、目を見開いた。

いま、なんて言ったの……？って。

「俺が近衛隊長になって、ナナが総長。どう？」

どう？って──…。

「近衛隊長って……総長よりも、強い人じゃないとできないんでしょ…」

「まあ、実際は五分五分。ナナとはケンカした事ねぇから……。俺、結構強かったりしちゃうんだよな」

五分五分って。でも。