第79話

私は柚李が好きなはずなのに…

体は流雨を求めだしている。


晴陽の思い通りになって行く。


怖くてそれが嫌で、私は流雨がいない朝、柚李に話しかけた。「毎日すみません…」って。

私のせいで、弟と遊べなくて…。

柚李の自由な時間を奪ってしまって…。



そんな柚李は「…謝らなくていい」と言ってくる。





「お前が晴陽に何を言われたか分かんねぇけど、その意思を俺が応えねぇわけにはいかねぇだろ」


「…柚李さん、」



私が流雨を好きじゃないと知っている柚李…。

けど、私が誰を好きか気づいてない男。



「……気が向いたら、また、何があったか教えてくれ」



弟と遊ぶために、私は流雨を選んだのだと?

言うはずないのに。

きっと気が向くことはなくても。

「…はい」と答えたのは、私が柚李を好きだから。



「流雨に酷いことされたら、言えよ」


「……酷いこと?」


「俺はお前の護衛だからな」



護衛だから、副総長からも護ってくれるらしい…。



「流雨は…優しいですよ…」


「そうか、それなら良かった」



柔らかい笑顔を向ける柚李が、本当に好きだと思った。私はこの人を護りたいだけ…。


柚李を護りたい。






だから私は嫌いな流雨に抱かれる。

嫌なのに、抱かれることに喜んでいる私の体と心がおかしくなりそうだった。




11月半ばの、そんなある日。


その日は御幸は魔窟にいなく。

柚李は「外見てくる」と出ていき。

流雨はまだ来ていなく。

残されたのは何を考えているか分からない晴陽だけ。




「そろそろ、俺の言ってた意味が分かった?」と、隣に座る私に言ってきた晴陽…。



言ってた意味。

体は流雨を好きになると…。

三大欲求…。



すぐに分かった私は、「頭がおかしくなりそう…」と顔を下に向けた。



ふ、と、鼻で笑う晴陽は「流雨を好きになればいいのにな?」と、煙草に手を伸ばした。



「簡単に言わないで…」


「開き直れよ」


「私が好きなのは柚李さんだもん…」



柚李のためだから。そう思って晴陽を見れば、煙草に火をつけているところで。



「その事だけど、お前優しくされたから勘違いして好きとかおもってんじゃねぇの?」


「…何言ってるの…」


「いや?そう思っただけ」


「私の気持ちを弄んでそんなに楽しいの?」


「うん、早く流雨を好きになれって思ってる」




白い煙をはく晴陽…。

流雨よりも大嫌いな男。



「じゃあ、あなたは私の事好き?」


「いや?」


「好きになれって言われて好きになれる?」


「男は単純だからな〜…」


「……」


「でも、そうだな、俺は女を好きになんないかな」


「……」


「なるだけ無駄だもんな」


「晴陽だって、言われて好きになれないってことでしょ」


「そういうことだな」





他人事のように煙草を吸っている男。


そんな晴陽の横顔を見ながら、下駄箱に入っていたあの手紙を思い出していた。

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