第74話

──晴陽は何かを護りたいから、私を〝姫〟にしたらしい。


犠牲。その理由が何か分からないし。きっと聞いても晴陽は教えてくれないと思う。


本当に何を考えているか分からない男。


私はただ流雨に抱かれ、柚李に護られるだけ。


晴陽は一体、何をするつもりなんだろう…?










「俺の月を見にあんな数…ほんと虫唾が走るよ。気持ち悪いね」



帰りの車の中だった。私の横にはもちろん流雨。肩に腕を回し私の頬にちゅ、ちゅ…と、リップ音を与えてくる流雨は、魔窟の外にいるギャラリーたちにご立腹だった。


そして助手席には、柚李が乗っていた…。


私を家まで送る事が近衛としての仕事の柚李。

柚李は後ろを見ようともしなかった。



「月に惚れたやつ出てきたらどうしよう?失明かなあ…」



たまに唇にもキスをしてくる流雨は、まるで柚李に聞こえるように音を出してくる。拒否る事ができない私は、柚李に耳を塞いで欲しいと思っていた。



聞かないで──…



「流雨…」


「もう、昨日よりもかわいい。明日はもっとかわいいのかな?」


「あっ、…」



ふいに首筋にキスをされ、声が漏れてしまった私のそれに、嬉しそうに微笑む流雨。



「だめだよ月、車でやる趣味はないから。ホテルまで我慢して」



いやだ、こんなの。

どうして柚李が乗ってるの。

苦痛でしかない…。




いつものホテルで降りた流雨は、助手席の人に向かって「月で想像してヌかないでね」と言うと私を連れてホテルの中に入っていく。




「流雨…あの、」


「うん?」


「柚李さん…ずっと外で待つの? 車で…」


「ね?いらないよね?ほんと車の中あいつがいるだけで空気が悪くなるよ」


「…」


「どうしよ、戻ったらセーシ臭かったら」





ふふ、と、笑った流雨とホテルに入ったのは21時20分頃。



部屋に入った途端、流雨に深いキスをされ、我慢できない流雨に何度も何度も抱かれた。


快感を永遠に与えてくる流雨はやっぱり離してくれず。


「逃げちゃだめ」と言って、奥をせめてくる流雨のセックスにまた鳴き。


部屋の中が吐息と、その事情の匂いが漂う頃にはもう23時を過ぎていて。お風呂に入り、また流雨に体を求められお風呂から出る頃にはもう日付が跨ぎそうだった。






「おまたせ?」と、そのホテルの駐車場にとまって、助手席に座っている柚李に言った流雨。




もうとっくに、小学生の子は寝ている時間…。



心の中でごめんなさいと、思う私は、…いつ柚李を解放出来るのかとずっとずっと考え込んでいた。

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