第73話

「できれば流雨を好きになって欲しかったけどなぁ」


「…なれるはずない……、酷い、事されたのに…」


「そうか?わかんねぇよ、人間は単純だから」


「…好きになんか……」


「なのにイキまくっちゃうの?」



ふふ、と、軽く笑う晴陽。

イキまくる、どうしてそれを晴陽が知ってるの…。流雨にきいた…?



「…人間っていうのは、本当に相性が大事だよ。好きであっても体の相性が悪かったらどうせ上手くいかない」


「何言ってるの…」


「ナナが好きでも体の相性が悪けりゃ終わるって話な」


「…やめてよ…」


「その分、体っていうのは離れられない、セックスの快感が忘れられないから。三大欲求とはよく言ったものだよ」


「…さっきから何言ってるの?」


「またシタイ、って思うんだよ」


「……」


「流雨は気持ちいい?」


「……変なこと言わないで…」


「流雨ってそういうのしそうだから」



そういうの?



「他の男が抱いたら違和感しかない…、流雨にしか出来ないやり方。流雨以外の男は気持ちよくないって…」


「……」


「まあようするにSMプレイばっかしてたのに、急にノーマルセックスされても感じませんってこと」


「……」


「きっとナナが好きでも、体は流雨のことを好きになるよ」


「……」


「きっとね」


「……なるわけない、」


「なるよ、これがよくある浮気。別の人を好きでも、体が別の人を求めてしまう…──それが体の相性の怖さ。…──と、話がそれたな、まあとりあえずセックスも程々にね?」



にっこりと笑った晴陽は立ち上がると、まだ火がついていた煙草を灰皿で消した。


そして私のそばまで来ると、耳元でそれを呟く。



「ナナと関係を持つな」と。



なるわけないのに。




さっきから本当に意味の分からないことを言う晴陽に「やめて」と言い返そうとした時だった。



突然扉が開かれ、──…



「ちょっと晴陽、月と2人っきりで何してんの?もう俺のなんだからやめてくれない?」



その扉をあけたのは、流雨で。少し不機嫌そうにしている流雨は中に入ってくると、「俺のなのに」と呟きながら痛いぐらい私を抱きしめてきて。



「悪いな」


「もう絶対しないでよ」


「はいはい」


「はあ、会いたかった…」



あった直後だというのに、私の頭にずっと愛おしそうにキスしてくる流雨。


それを見て、呆れたように笑う晴陽。



「そんなに好きか?」


「当たり前でしょ、命より大事だよ」


「離すなよ?」


「離す?何言ってるの、離すわけない」


「どうかな?お前は自分を見失うと頭おかしくなるからな」


「…───で、2人して何話してたの?」


「流雨のセックスは気持ちいいって話」

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