第72話

「じゃあその6割を手伝えば、柚李さんをやめてくれる?」


「月ちゃん、それほどナナが好き?流雨嫉妬するよ?」


「流雨は知ってる…、私が柚李さんを好きな事」


「んー…さっきも言ったと思うけど何もしないで。愛されて護られるだけでいい。月に出来ることはそれぐらいしかないよ」


「晴陽の目的が終われば、…柚李さんを自由にしてくれる…?」


「…終われば、ね。大丈夫、そん時は俺はもうここをやめてるし、月に関わることも無い」


「…」


「月とは二度と会わないよ、きっと」




静かにそう告げる晴陽は、まだ長く残っている煙草を灰皿の上に置いた。

まだ、火がついている煙草を。



「ごめんね」



そう言って私を見つめる男。



「巻き込んで…。俺、月ちゃんより護りたい物があるんだよ…」


「…」


「本当に大事なもの」


「…」


「そのためなら何を犠牲にしても悪者になってもいいと思ってる」


「…」


「ほんと犠牲になった月にとっては迷惑な話だけどね」



男は、視線を下げる。



「本当に…、俺の目的が終われば、もう一切関与しない。ただ流雨は逃がしてくれないと思うけど…。それだけは許して」



煙草の匂いだけが、漂う…。



「もし、…本当にムリだって思った時、言ってきてくれ」



ムリだって思った時…



「俺が脅したって言って、姫を辞めさすから」



……。



「それまでは、じっとしててほしい」



じっと…、何もするなってことで…。

ずっと流雨に愛されて。

柚李に護られてろと?



「ごめんな」



謝られても…。




「私はあなたの護りたい物の為に犠牲のなったの?」


「うん」


「最悪だよ」


「だな。俺が月だったら、たぶん殴ってる」


「…殴るどころじゃない、本気で怒ってる」


「じゃあ、月が俺を殺す?」



何言ってるの…。



「そしたら俺は二度と、月に会わないから」



死んでしまっては二度と会えない。



「お前ならいいよ、俺がやったみたいに首でも絞める?」



ここで初めて目を覚ました時、晴陽に首を絞められたのを思いだす…




「そういえば、月とやる事はやっといてキスはしてねぇよな」


「…晴陽」


「殺す前に1回ぐらいキスしてくれよ」


「変なこと言わないで…」


「だって流雨のやつ見てたら、気持ちよさそーじゃん?お前の口」


「…いつ終わるの?目的は」


「さあ、いつかな。俺が〝安心〟出来ればすぐにでもって思ってるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る