four

第71話

この中は変わらない。定期的に洗濯しているらしいシーツ。それから彼の吸う匂いが漂っている…。



まだ煙草を吸っている晴陽はそのベットに腰掛けると、「何から聞こうか?」と立ったままの私に顔を上げた。



「…うそつき、」



柚李に聞こえないように、小さい声を出す。




「うそ?」


「送りは流雨だけでしょ…?なんで柚李さんもついてくるの?話が違う…」


「ふうん?そんな話になったわけ?」



そんな話になったわけ?


柚李が全力で護ると言ったのは、今朝。


柚李が彼に言ってないとしても、晴陽は分かっていたんでしょう?



「白々しい…、約束が違う…」


「俺は何も言ってないよ、送りは流雨に任せたって言ったっきりなんもナナには言ってない。あいつが勝手に決めたんだ」


「…流雨だけにして、柚李さんを家に…遅く帰らせないのが約束だったはず」


「言ってもいいけどあいつはやめないよ」


「…総長の晴陽が言えば従うでしょ…?」


「ナナはお前を護る事に決めたんだよ、ナナのプライドからしてあいつはやめない」



プライド…。



「こうなること、予想してたんでしょ?分かってたんでしょ?」


「ああ」



また、1回。煙草を吸った晴陽は紫煙を出しながらサイドテーブルの灰皿で煙草を消した。



「でも、五分五分、ナナが月を姫として受け入るか分からなかったよ、あいつはずっとゴネてたからな…」



私を全力で護ると言ってくれた柚李…。



「私……、あなたに…何した?」


「何も」


「どうして、…私を苦しめるの…」


「ごめんね」


「柚李さんのために、流雨に抱かれた、付き合った…。それなのに…酷すぎるよ…言う通りにしたのに…」


「うん」


「この前の土曜日のことも、何も聞かされてない…」


「言ったら逃げるかもしれなかったからな」


「メンバーの人と話すなって言ったのは、そのため?まだ〝仮〟だってこと気づかれないようにするため?」


「かな?」


「バカにしないでよ…」


「月は〝賢い〟と思うよ」




ふ、と、笑った男を、本当に殴りたい…。




「私を流雨の彼女にしたのも、〝正式〟にするため…?」


「うん」



何も隠そうとしない男は、また煙草を吸うのか煙草を1本口に咥えると、そこにライターで火をつけた。



「…何考えてるの…」


「何が」


「私を〝姫〟にした目的はなに」


「さあ?なんでしょう?」


「晴陽…」


「言うなら、お前をここから逃げ出さないようにするのが目的?〝姫〟は保険」



ふう、と、口から煙を出す晴陽の言っている意味が分からず。


私を逃げ出さないようにするのが目的?


保険?





「4割、ぐらいかな? 今は」



4割?



「俺の最終目的地はまだ遠いね〜」



クスクスと、笑う晴陽。



「何をするの?」


「別に…。月は俺の思う通りに動いてくれればいい」


「はる…」


「俺はこの先一切、お前に何も言うつもりもない。お前は流雨のそばにいて柚李に護られてればいい、分かった?」


「……分かるわけない…」


「じゃあもっと〝賢く〟なってね」




にこりと笑った晴陽…。


バカにしやがって…。

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