第68話
「あと変わったことねぇとか、いつも通りっつーのはいらない。毎日同じなワケねぇだろ。ちゃんとまとめて言ってこい」
「はい…」
「言えるな?」
「は、はい」
「靴も走りやすいようにローファーやめろ、運動靴にしろ基本だろ」
「すみません…」
「つかお前ら、なんで2人で月の後ろにいる?どっちかは月の前だろ。護る気あんのか」
「すみません……」
「それから月の鞄はお前らが持て」
「…はい」
「あと──…」
いつも柚李は助手席に座っていた。
それなのに「そいつの後ろ座れ」と運転席側の後ろに私を座らせた柚李は、どうしてか今日の朝から私の真横に座っていた。
つまり、助手席の後ろ。
車が走っている最中、スマホを取り出して何かを操作している柚李を見ていたら、「…どうした?」と話しかけられて。
どうしたって…。
だって、いつもと2人の対応が違ったから…。
「……どうして、隣に?」
「助手席じゃ護れない」
「…たくさん、2人に聞いてましたね」
「…ああ」
「……誰かと連絡ですか?」
「お前のクラスの女の名前メモしてる」
「……」
「月、一応言っておくけど」
スマホから顔を上げた柚李は、隣にいる私を見つめてきた。
「あいつらは護衛だ、お前を護るためにいる。2人が血塗れになってもお前はそれを無視して逃げろ。血塗れになっても護るのが護衛なんだよ」
護衛…。
2人が血塗れになっても?
無視して逃げる?
そんなこと、できるはずない…。
「けど、あいつらは家来でもなんでもない。命令するのは近衛である俺の仕事。護衛に頼み事なんかするなよ」
「…」
「護衛は護衛、護るのが仕事。それを忘れるな」
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