第53話

「あ〜なんで月はこんなに可愛いんだろ?俺に会いたくて外で待ってたんだって。かわいいかわいい大好き」



いつもの定位置。晴陽の横。

そこに座った流雨は、私を後ろ向きに足の上に乗せてくると、ぎゅうっと抱きしめてくる。私の背中に頬を寄せる流雨は「可愛すぎる…」と、私を離してくれない。



「ベタ惚れだな、流雨」


「当たり前だよ。やっと振り向いてくれたんだよ?ベタベタしないでどうするの?」



クスクスと笑う御幸に、流雨は本当に嬉しそうに答える。…私の彼氏になった男。



「良かったなー」



他人事のように、まだ雑誌を読んでいる晴陽。



「羨ましい?晴陽」


「そうだな、女欲しくなるな」


「別にいいけどこの中には入れないでよ。俺その女殺しちゃう」


「なんだそりゃ」



ぱら…と、雑誌のページをめくる晴陽もどうでも良さそうに笑っていて。

笑ってないのはただ1人。こっちを見ようともしない、少し離れた場所にある机に腰かけている柚李だけ。

その顔はすごく眉を寄せて不機嫌だった。




「はあ、かわいいたまんない…」



その眉は、流雨が喋るたびに深くなる…。



「本格的に流雨の女として回さなきゃな、晴陽もうやってんの?」


「今日の夜するつもり」


「ふうん?じゃあ護衛も強めないとなあ」


「流雨の女に手ぇだしたら凄いことなるかもな」


「何言ってるの、死ぬよりも辛いことしてあげるよ。俺の月に手をだすなんて死に値するよね」


「おーこわ、流雨のマジ切れほど恐ろし〜もんねぇよな、なあはるぴ」


「そうだな」


「やめてよマジ切れなんかしないよ。月の前で下品なこと言わないでよ」



御幸、晴陽、流雨の会話を聞きながら。

これから私どうなるんだろうって考えて…。


流雨から逃げられなくなった私は、嫌がらず流雨に体を預けたまま。

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