第52話

私にやれることなんて限られてる…。流雨を懐かせることぐらい…。流雨が私を気に入ってるから…。


気に入ってるからなんだろう。分からない…。今はしゃいでいる柄の悪い彼らに聞けば何か分かるんだろうか…?




でも晴陽の命令だから喋る訳にもいかなくて。



あ、そっか、あの二人。富木くんと宮本くんに何か聞き出せば分かる、かも?

ううんだめ…あの二人は〝今日の出来事〟を柚李に知らせる。私がこうして内緒で探りを入れてあるのがバレたら元の子もない…。

それに宮本くん達はグループ?族が違うとかで、詳しく知っているとは思えなくて。

でも私より何かを知っていることは確かだから。



そう思ってぼんやりと私が乗ってきた車を見つめた…。高級な車…。黒塗りのファミリーカーではない車。

それが1台あって、その車の近くには今日運転してくれてた人が煙草を吸いながら誰かと喋って笑っていた。



あの車は、あの運転手の人のものなのかな?

ううん、運転手は変わる。誰かのじゃない、ここの族の所持品?



所持品──…



結構高そうな車なのに?

族っていうのはお金があるの?



そういえば、ここの建物は誰の?

家賃は──…

この敷地は誰のだろう?



そこでふと、昨日の流雨の言葉を思い出した。

隣の県では有名だったりする流雨…

お金持ちの男。

まさか流雨が用意しているとか?

ここの内部事情が全く分からない。







いろいろ考えていると、その15分ほどで、昨日帰りに私が乗って帰った車が敷地内に入ってきた。



──…流雨が、きた。



運転手がおりてきて、助手席を開ける。

もう出てくる人物が流雨だって分かっていた私は、足を進めた。

もう自分の手で髪はおさえていなかった。

風で髪が揺れ、アトがついている首筋がさらけ出され…。



「…るな?」



私に気づいたらしい、今日も大嫌いな流雨が目を丸くする。



「なんで? なんで中に入ってないの?」



そんな流雨は、今日もどこの高校か分からない制服を着ていて。少し小走りで駆け寄ってくる。



「月?」



首を傾げ、私を覗き込む流雨…。

奥歯を噛み締めるのをやめ、少し口角をあげて。流雨に向かって微笑んだ私は「…がまんできなくて…」と流雨から視線をそらした。



「我慢?」


「はやく会いたくて…」


「……会いたいって俺に?」


「はい…」


「……」


「あの…だめだった…?」



上目遣いのように下から流雨を見つめれば、そこには頬を少し桃色に染めた男がいて。

自身の口もとに手をおいた流雨は、「ううん、嬉しい」と照れたように言う。



「俺も会いたかったよ」



口もとから手を話した流雨の顔は本当にすごく嬉しそうで、私の腰に腕を回してきた彼はそのまま覗き込むように唇を重ねてきた。



周りが見てる。

柄の悪い人達が見てる。

まるで口寄せパンダのよう。



流雨には珍しくふれるぐらいのキスで終わり、「待たせてごめんね、女の子を待たせる男なんか最悪だね反省する」と、髪にキスをして、腰に腕を回しベタベタにひっつきながら部屋へ向かう。






どこからか、「やっぱ昨日から付き合ってんのか?」という、不思議そうな声が聞こえた。

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