第50話

こんな体で、半袖短パンになる体育にもちろん参加出来るはずもなく。唯一の助け舟のジャージも持ってきていなくて。



体調が悪いと嘘をつき、保健室に行った。

もちろん保健室の前には護衛の2人。

私のせいでサボってしまった2人…。

それにすごく申し訳なくて、今度からはジャージを持ってこようと決意し。



放課後、柚李を拒絶したというのに、柚李は〝今日の出来事〟を2人に聞いていた。

3限目保健室にいたということを聞いた柚李は、魔窟へ向かう最中車の中で「体調悪いのか?」と仮病の私に何回も聞いてきた。



下を向く私に、「…流雨に、酷いことはされてないんだな…」と言ってくるけど。



本当にもう柚李に心配されたくない私は無視を貫き通した。



──…魔窟は、いやな匂いがした。ここに来てから大嫌いになった煙草の匂い。

この匂いを嗅ぐ度に晴陽の顔が脳裏に浮かぶから。



「ちゃーお、月ちゃん」



ヒラヒラと手をふってくるのは、御幸。

赤い眼鏡をした御幸は、「聞いたよ?流雨の彼女になったんだって?おめでとう」と、誰に聞いたのかそんなことを言ってきて。



顔を顰め、晴陽の元へ向かう。

無視したことに御幸は「切ないなぁ」と、気にも止めてない様子だった。



晴陽は私を見ず、雑誌を読んでいた。

口に煙草を咥えながら。

本当にヘビースモーカー…



「晴陽」



私の呼び掛けに、煙草を口から離した男は「ん?」とわざとらしく微笑み私に視線を向けた。


ほんとうに、ムカつく……



「流雨を待ってたいの…、外に出てもいい?」



外に。流雨が嫉妬しない外に。

いいよね?晴陽の言う通りにしてるんだから…。それぐらい。



その質問に晴陽は一瞬、何かを考えたような仕草をして。



煙草を吸った後、「…いいよ、その代わり誰とも喋らないように」と、雑誌に目を向けた。


いつもみたいに「お好きに?」や「どーぞ」って言わなかった晴陽。



「流雨の女と話す度胸あるやついねぇよなあ?」



ケラケラと笑う御幸…。



「いや、中にいるべきだろ」



と、それを阻止してくる柚李がいたけど。柚李を無視する事を決めた私は外へ出るために足を進める。


本当は喋りたいのに──…

私に優しくしないでほしい。



「だったら月のそばにいれば?近衛だもんな」


「間近で熱々シーンか?」


「流雨の事だから嬉しがるだろうなあ〜」


「ふっ…」



鼻で笑う晴陽に本当に腹が立ち、少し荒っぽく外に出た私は、その扉の近くで立ち止まり大嫌いな流雨を待った。

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