第49話

その日の夜は眠れなかった。

ホテルでお風呂に入ったというのに、家帰ってもお風呂に入った。

そこで見たキスマークの数を見て、やっと目の奥が熱くなったけど。そこから涙が出ることはなかった。


明日は流雨と泊まり…。

また抱かれるのかな…っと思ったら、勝手に奥歯を噛んでいた。




脅している晴陽…。

弟思いの柚李…。

恋人の流雨…。

何かと突っかかってくる御幸…。


私が解放されるのは、本当に彼らが引退した時なのだろうか…。


脅しもやめて。

柚李とは会わなくなり。

流雨とは別れ。

御幸も…。



そもそも晴陽は、何を考えているんだろう…。






次の日の朝は大変だった。

制服のスカートと、見えないように黒のロングソックスを履いても、肌が出ている膝元に付けられたキスマークが隠れてくれなかった。


季節は10月。

タイツを履くしかなくて。


シャツを上までボタンをしめても、丸見えだった。いつも隠れるようにアトを残していたのに。

隠す事を考えていなかった私は、もう柚李が来る時間になっていたため、髪の毛隠すように家を出た。






髪の毛で隠すしか出来なくて、風がふき首筋が見えちゃだめだから。必死に髪をおさえる私を迎えにしてくれた柚李の姿を見て、……もやっと、すごく罪悪感を感じた。



「月」



いつもは車の近くで待っているのに、私に駆け寄ってくる男…。



「きのう、」



そう呟いた柚李が、視線を下げる…。そこにはタイツで隠れた足…。

そして必死に首を隠す私の手元を見た柚李は、険しい顔をした。



「…なんで晴陽に従った…」



柚李を無視する私は、視線を下に向けたまま。



「俺言ったよな? 流雨の女になると逃げられなくなるって。なんで…」



流雨の女になると逃げられなくなる…。

それはつまり、流雨が引退した後も続くってことで。



「…流雨が…すきなんです…」


「嘘つくな」


「……きもちよかったです」


「…は?」


「るう…」


「……」


「はるひよりも…」


「…晴陽? お前、まさか、昨日──…」


「流雨に言わないで下さいね、嫉妬しちゃいけないから…」



鋭い目がよる。

怖いくらいに。



「柚李さんって、いつもそうですよね…」


「何が」


「私を守ってくれるけど、晴陽からは守ってくれない…〝姫〟を止めさせてくれない…。どっちなんですか…」


「お前…」


「期待するので、もう、守らなくていいです、優しくしないでくださいっ!」



本当は守って欲しいのに、

キスマークだって、柚李に見られたくないからなのに。必死に首を隠すのも…。



嘘をつく〝賢さ〟を覚えた私は、唯一味方である柚李を拒絶した。




もしかしたら拒絶することも、晴陽の思い通りなのかもしれない──…。

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