第43話

そのホテルは、そういうホテルじゃなかった。ラブホテルではなく、ビジネスホテルでもなく。レストランやフィットネスジムがあるシティホテル。



制服姿なのに、その高級そうなホテルの中に入っていく流雨…。「制服じゃラブホに入れないから、っていうか月をラブホになんか連れていくはずないけどね」とにこにこと笑う男は、受付で流雨の名字を言っていた。



制服…高校生。

18歳以下。

でもそれってここのホテルでも同じでは?と思って、その高級ホテルの中で戸惑っていれば、簡単にカードキーを渡される流雨に唖然とする。



「ここ、親の会社の系列なの」



系列?

親の会社。

家が裕福らしい流雨は「案内はいいよ」とホテル側の人にそう言うと、私の腰を抱き歩き始めた。



「……経営してる、ってことですか?」


「うーん、そんなところ、俺ん家結構お金持ちだから」


「…そうなんですか」


「実は隣の県に住んでるんだけどね、結構名字有名だったりするんだよ?」



にこにこと笑ってる流雨は、エレベーターのボタンを押した。そんな流雨の制服は見たこともなく。隣の県に住んでいるらしい男は「15階だって。夜景綺麗かなぁ?」と、すぐに到着したエレベーターの中に乗り込んだ。




「…隣の県から、きてるんですか?」


「うん、だからいつも溜まり場に行くの俺が1番遅いし、時間の関係で放課後も迎えにいけないの。ごめんね」



っても1時間ぐらいの距離なんだけど…と、15階のボタンを押した。



「毎日、その距離をかけて…?」


「そうだよ、一応副総長だし、石川さんたちもいるし、何より今は俺の彼女がいるから」


「…」


「これから彼女に会えると思ったら幸せだなぁ」



本当に嬉しそうに喋る彼は、腰を引き寄せ、頭にキスをしてくる。



「面倒では…ないのですか」


「月に会うこと?」


「いえ…、その、ずっと…通ってたって事ですよね…」


「思わないよ、俺があそこを選んだのは離れてたからだもん」


「…離れてた?」


「真面目……。全国模試で名前が載る程の進学校の生徒が暴走族やってるって、おかしいでしょ?」




──チン、と音が鳴り。


エレベーターの扉が開く。



全国模試…

名前が載るほどの生徒…。



歩き出す流雨は、「あそこにいる奴らはみんなバカだから、進学校っていう言葉も知らないんだよ。ましてや隣の県の進学校名なんか知るはずもない」と、部屋の前につくと、カードを取り出した。

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