第40話

「──…何言ったあいつに!! お前何考えてんだよ!! 護衛もお前が裏で手ェ回したんだろ!?」



中に入れば、柚李の怒鳴り声が聞こえた。



「上の意見無視して月に言ってくるはずねぇんだよ!!」



柚李が怒鳴ってる相手はもちろん晴陽。


そんな柚李を無視する晴陽は、いつものように煙草を吸っていた。



「ねぇ、晴陽、奥の部屋借りていい?俺月とイチャイチャしたくてたまらないんだけど」



柚李の事は無視するくせに、流雨が話しかければ顔をこっちに向けた晴陽は「いいけど俺寝たからな、それでもいいなら」と軽く笑う。



「交換してないの?それはいやだなぁ」


「汚れてるよ」


「うーん…」



さっきまで私を抱いていた場所を〝汚れてる〟と言った晴陽は、「聞けよ俺の話!!」と怒鳴っている柚李をやっぱり無視する。



「じゃあもう帰っていい?明日からはちゃんと21時までいるから。お願い」



私を離さない流雨は、軽くキスをしてきた。



「…どーぞ」と言った晴陽にもちろん抵抗するのは柚李…。



「ふざけるな!! 送るのも俺だろ!! なんで流雨に戻ってんだよ?!」


「お姫さまが流雨がいいんだって」


「晴陽!!」


「なあ、月、流雨がいいんだよな?」



晴陽の視線が、私に向けられる。脅しの目。

難しい顔をした柚李の目は怖かった。



「はい…」



返事をした直後、チッ──…と、柚李の舌打ちが響き。




「じゃあ近衛隊長として言わせて貰う、月はまだ他の奴らに認められてるわけじゃない。月の学校だって例外じゃない、1番守れる俺が送るのが妥当じゃないのか?」


「ようするに副総長は姫を守れないと?」


「確率の問題で言ってる」


「初めは流雨だったのに?」


「今の護衛の責任者は俺だろ」


「その責任者を任せてるのは俺」


「ふざけるなよ晴陽…」


「別にふざけてない、姫の我儘を聞いてるだけ。流雨の女である月が、流雨がいいって言ってんだよ」


「言わせてんだろ…」


「言わせてる?まさか俺が姫を脅すとでも?大事に扱ってるのに?」


「さっきここで何してた…」


「流雨、帰っていいよ。月も、ね」


「そう?じゃあお先に」



笑っている流雨が、帰るために外へと向かい…。それについて行く私に、柚李の視線が向けられるのが分かった。



「っ、…俺が送る、」


「しつこい」


「ふっ、…ばいばいナナ、見てて見苦しいよ」


「るう…」


「柚李、全ての判断は俺。それを忘れるな」




吸っていた煙草を灰皿に擦り付け、僅かに火を消す音が耳に届いた。

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