第39話

え……?と、時が止まったと思う。

流雨も、柚李も、──…外にいた彼らも。

いつも嫌がっていた私が、自分から腕を回しているから。



流雨は少し、言葉をとめ、再び「流雨さん?」と私が声をかければ、いつものように可愛い笑顔に戻り。




「びっくりしたぁ、今日はデレの日なの?」


幸せそうに笑っている流雨を見てほっとした。初めて嘘をついてしまった罪悪感…。それから疲労が凄くて。嘘がバレたらどうしよう…賢く、賢くならなきゃという考えしかなくて。



「おいっ」

「はい…、そうみたいです…。寂しかったです…」


まだ驚いている柚李を無視して部屋へと歩き出す流雨に引っ付く。




「寂しかったの?」


「はい、会えなくて泣いちゃいました…」


「泣いちゃったの? すごいね、デレの月かわいい。ううんいつもかわいいんだけどね?」


「デレはいやですか?」


「おいっ、月!」


その時、私の肩に柚李の手のひらが覆い。ぐっと後ろは振り向かせてきた柚李は、「お前、何言われた…?」って険しい声で言ってきた。



晴陽に、何を言われた…?



「…ちょっとナナ、俺の月さわんないでよ」


「いやどう考えもおかしいだろ!」


「おかしいの?月」


「いえ…、私…おかしいですか?」


「ううん、おかしくない。まあ月の場合はおかしくても好きだよ」


「私も流雨さんが大好きです」



柚李は険しい顔をしたあと、部屋に小走りで向かっていく。そんな柚李を見た流雨がクスリと笑い。


本当に嬉しそうにした流雨は「もう1回言って?」と言ってくるから。



「大好きです……」



そのまま口にすれば、流雨の唇が近づいてきた。それを受け止めるのは、私が柚李を好きで晴陽に脅されているから。


全てが晴陽の思惑通り。




近くにいる、男たちがキスシーンを見て騒いでいる。



「流雨さんがいいです…」


「なにが?」


「あの人よりも…」


「あの人?誰?ナナ?」


「今日は……、今日から流雨さんが、家まで送ってくれますか?」



ふれるだけのキスが終わり、上目遣いで見つめれば、「もちろんだよ」と、もう一度流雨が私を引き寄せた。

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