第34話

ギシリ…と、ベットが鳴る。

その原因は彼が腰かけたせい。

立ったままの私の手をとった彼は、「楽しい話だったらいいなぁ」と、本当にムカつく事を言ってくる…。




「……どこまでが、計算なの?」


「ん?」


「元に戻る…」


「何の話?」



何を考えているのか晴陽の親指が、私の手の甲を撫でる…。



「護衛も、陰口も、戻った。あなたが言った通り、送りも…柚李さんじゃなくなる…」


「…へえ」


「私が言ったお願いも、いつの間にか無くなった! あなたは私のお願いを聞いてくれるつもり無かった!」


「はは、バレちゃった」


「…っ、…」


「そうだよ?俺が自分の考えた事を他人に変えらせるわけないじゃん」



ふふ、と、笑った晴陽は、その手の甲に口付ける…。ちゅ、と、リップ音を鳴らした彼はそのまま手をひいた。


慣れたように立っている私の腰に腕を回した男。



「なに、考えてるの…」



その腕がいやで、泣きそうになる…。



「その前に俺に頼み事があるでしょ?」


「っ、」


「ほら、言ってみろよ。ナナはやめてくださいって。お前の口で」



腰に回っていない方の指先が、頬から顎へと撫でられる…。


悔しい…。ほんとうに悔しい…。

目の奥が熱くなり、じわりと眼球が潤ってくる。


全部全部、この人の思い通りになって行く…。



「わざと、1人にしたの? 護衛…」


「いや?2人に迷惑かかって嫌がってるって、下に吹き込んだだけ」


「陰口は…」


「陰口なんてのはな、一人が言い出したら広まるんだよ。その1人に言わせればいい話」



裏で動いていた男…。



「まあ、気づいたのは偉いな。褒めてやるよ。キスでもしてやろうか?」



そう言ってまた引き寄せてくるから、顔にあった晴陽の手を振りほどいた。

その拍子で、ぽたりと、涙がこぼれ落ちた。



「最低…」


「キスはお望みじゃねぇの?」


「やめてよ、」


「何を?」


「柚李さん…やめて、早く家に帰してあげて…」



分かっていたような顔をする彼は、ポロポロと悔しくて波を流す私を今度こそぐっと引き寄せると、いつも流雨がしているように抱きしめてきた。



「泣いてんの? 可哀想に」



その声は、笑っている。

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