第19話
流雨に会うのが怖かった。昨日の今日。
会いたくない。というよりも行きたくない。
やめたい。帰りたい。
そう思いながら放課後、後部座席から助手席に座っている柚李を見ていた。柚李はスマホを触っていた。そんな柚李は車の中では喋らず私の方に向くことも無かった。
車からおりて、魔窟に向かう最中だけ「ごめんな」と申し訳なさそうに謝ってくるだけだった。
賢くなれ。
賢くなれと言われても。
嘘をつくわけにはいかないから。
だってもし嘘がバレた時、また〝便器〟にはなりたくないから──…。
…──流雨が中に入ってきて、昨日の事を思い出した私はヒグッと肩が変な動き方をした。それを見た流雨はにっこりと笑い、そのまま視線をずらしチッ、と低く舌打ちをした後、柚李の方を見て「消えろよ」と呟いていた。
柚李はそれを無視してたけど、何も言わない柚李に余計流雨が苛立った様子で。
いくら私でも分かる。何週間ここで過ごしていれば、この2人は仲が悪いということに。というよりも一方的に流雨が柚李を嫌っていた。
ザリガニを知っていたから私を気に入った流雨。そんな流雨は私の事を好きで。それでも私は流雨が怖いから柚李に頼ってしまう…。
でもそうすれば2人の仲がもっと険悪になっちゃうから。
「お前はこの子よりナナが気になるのか?」
睨んでいた流雨にそう言った晴陽に、流雨は「そんなわけないでしょ」と童顔の可愛い顔に戻った。
「月、昨日はごめんね? がっつきすぎちゃったみたいで。一昨日体調悪いって言ってたのに…。今日はもう大丈夫なの?」
流雨はそう言いながら近づいて、ソファに座っている私の前で膝をおった。
今日、御幸はいなかった。
「体調悪いせいでナナなんかに助けを求めて…。ナナに言ったの、結構辛かったから、今度からは俺に言ってね?」
あなたのせいで体調が悪いのに…。
なんて言うの?
キスしたくないって?
そんな事言えば、きっと彼は怒る。
賢くなれって、どうやって?
「難しい顔して、何考えてるの?」
可愛らしい顔を、傾ける。
キスされたくない。
「ナナのこと?」
そう聞かれて思わず顔を横にふる。だって考えてたわけじゃないから…。というよりも、
「……流雨さん…の、ことを…考えていました…」
恐る恐るそう言った私に、大きな目をもっと丸くした彼は、「俺の事考えてるの?」と、少しびっくりしたように呟いた。
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