第18話

車の中。そこには総長の晴陽はいない。

家につき、柚李に「シャワーも浴びてきていいですか…?」と聞いた。

柚李は「ああ」と言ってきた。







「──…前に、言ったと思うけど」


柚李がそう口を開いたのは、家から出て学校へ向かっている最中だった。


前?何が?そう思って柚李に顔を向けても、柚李は私の方を見ていない。



「ここにいる間は賢くなれ」



賢く…?

どうやって?



「……そんなのできない…」


「流雨に短いキスがいいとか、人前でベタベタすんのはいや、とか、適当に言えばいいだろ?」


「…そんなの、……」


「怖いのは分かる、けど、俺だってお前を〝全部〟守れるわけじゃない。自分で身を守ることも考えろ」



身を守る…。

私は守ってる。

やだっていってる…。

それでも〝姫〟をやめさせてくれないのは、柚李達の方なのに。



「…どうすれば…」


「とりあえず言ってみろ」


「…なにを」


「流雨に、俺よりも流雨が好きって。そうすりゃあいつの機嫌は1発で治る」


「……」


「セックスは痛いからいやって言えば、流雨は二度とお前に手を出さないよ」





そう言った柚李は学校につくと、食べていないビニール袋に入ったパンを私に渡してきた。

「昼に食ったらいい」と、軽く笑った男。




そんな男が、〝私〟を渡す。

「おはようございます、七渡さん」

校門で待っている男子高校生は、1人になっていた。







「それで、この前集会で〜」


「月ちゃんいたよね?」


「うん、ほんとお姫様みたいだった〜」


「羨ましいよね」



昨日の今日。

どうやってやったのか。

噂は聞くものの、私への暴言の陰口は無かった。






──私の世界が、また、変わった。

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