第12話

なぜ、霧島は晴陽達を裏切ろうと思ったのか。

その噂は流れてくれなかった──…。



流雨がいなければ、流雨さえいなければ。

私は解放され元の生活に戻るのに。





その日も柚李は私を迎えに来た。預けていた〝私〟を彼らから受け取ると、〝私〟の今日の出来事を聞いていた。


「いつもと変わりません…」と言った2人に、柚李は「分かった」と言っていた。






車の中はまるでお葬式、お通夜状態。

どこからどう見ても感情が不安定の私は、後部座席で帰りたい帰りたい帰りたい…と何度も繰り返して心の中で思っていた。



それでも車は、地獄の部屋へと近づいていく。



車をおりて、柚李に支えながらおりれば、いつものように申し訳なさそうにした柚李が「…ごめんな」と謝ってくる。



謝るなら、もっと守って、お願いだから。



「ゆう…りさ、」


「ん?」


「かえり、たい…」



ぎゅっと、鞄を握りしめる…。



「流雨に言え」


「るうさんが、いなく、なれば、私は、解放されるの…?」


「……流雨がここから抜けるって事か?」



小さく頷く私に、彼はため息をつく。

複雑な表情をした。




「流雨がやめても、晴陽がお前を逃がさない。お前が解放されんのは〝姫〟じゃなくなる時…。俺らが引退した時だろうな」




晴陽が私逃がさない、

なぜ?

晴陽の用事は、終わったはずなのに──…




「…それは…いつ……?」



私は、いつ、〝姫〟じゃなくなるの?




それを聞いても柚李は教えてくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る