第7話

柚李…は、こうして、助けてくれる…。




顎に流れるその唾液を手のひらですくうようにおさようとした時、「どうぞ?」と目の前にティッシュの箱を差し出された。



見上げれば、いつ部屋に来たのか。

目の前には御幸がいた。

今日も赤い眼鏡をしている、茶髪の男。

にっこりとし、もう一度「いらない?」と首を傾げる彼に「……ありがとうございます…」と言いながらティッシュを1枚貰った。

それで唾液をふいている時、まだそばにいる御幸がいう。



「地声は普通になのに、やだっていう声は可愛いと思うよ?」と。



ぐ、と下唇をかみ、その人を見上げればやっぱり楽しそうににこにこと笑っている。



「御幸、殺すよ」



水槽の中に餌をやりながら、流雨が御幸に向かって言った。御幸は「…冗談」と笑いながら、ティッシュを机の上に置き、備え付けてある冷蔵庫の方に向かって…。



ぎゅっとティッシュを持つ手に力が入った時、ソファから立ち上がる男が1人。

柚李はスマホの時間を確認したのか、一瞬スマホを見たあと「帰るわ」と呟いた。


帰る…

柚李がいなくなる、

やだ……。いや。



「もう帰んの?」



私が聞きたいことを、御幸が聞いてくれ。



「弟の宿題見る約束してる」


「ふうん?柚李ってブラコン?この前もそう言って帰ってたくね?」


「うるさい、…流雨、さっき、月が体調悪いって言ってたからそろそろ帰してやれよ」


「ナナが俺の月を呼び捨てにしないで、きもちるい腹が立つ」


「明日、いつもの時間に迎えに行く」



柚李は最後に私に向かってそう言ったあと、出口の方へと足を進めた。

私はその背中を無意識におっていた。



……行かないで…。お願い。



そう思う私は柚李を見つめ。目は合うことなく柚李は出ていった。



柚李………。

助けてくれる人…。





ザリガニのお世話を終わらせたあと、流雨が戻ってきた。



「体調わるいの? ごめんね気づかなかった、月はいつも可愛いから、理性飛んじゃった」



そう言って笑った流雨は、「帰ろうか?」と、私を立ち上がらせると腰に腕を回しながら、ゆっくりと歩きだし。




「晴陽、帰っていいよね?別にイベント無いでしょ?」


「…お好きに」



ふ…と、少しだけ笑った晴陽も、こっちを見ることは無かった。

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