親睦会
一方。
わたしたちが魔黒刀を封印されていた場所へ行ってる頃、綴たちはというと。
「…美味い」
「本当だ。美味しい」
綴と雲雀は饅頭を一口食べるとそう呟く。
四人は廊下に並んで座って庭を眺めながらお茶をしていた。
並び順は左から雲雀、綴、伊吹、浅葱と座っている。
「そうですか。良かった。味が気に入って頂けたようですね」
浅葱はほっとしながら笑顔でそう言った。
その隣で伊吹は黙々と饅頭を頬張っている。
「うむ。この饅頭はなかなかいいものです。特にこの小豆を包んでいる生地がもちもちとしていて、小豆もなかなかのほど良い甘さ…。さすが浅葱さんの手作りのお饅頭はどれも美味しいですね。お茶にも合いますし、なかなかの技術です」
綴はつらつらと言葉を並べてそう言うと綴はまた一口食べる。
わたしたちのおやつは大抵浅葱が用意してくれる。
この饅頭も浅葱の手作りなのだ。
お茶に合う和菓子を探すうちに、自分で作る方が得策だと考えたのが始まりらしい。
そこから試行錯誤をして自分好みに手作りできるようになった。
ある意味職人のようである。
「ふふ。綴はなかなかいい舌の持ち主ですね。あなたの毎日の手料理も美味しいですよ」
「ありがとうございます。初めてここに来た時、五十鈴様にも褒めていただきました」
元々綴が来るまでの料理の担当は、古清水の召使いがしてくれた。
たまにわたしも習うために手伝ったりしていた。
だが雲雀が十六になった際に綴も一緒にここへ送られてきて、綴が自分から料理の担当をすると言い出したのだ。
そしてそれ以来、料理の担当は綴になった。
剣術しか興味なさそうに見えても料理はもちろん、家事まで完璧にこなせる。
あー見えても女の子らしい部分は沢山あるんだよね。
「将来はいいお嫁さんになりますね」
「いえ、そんな…。まだまだ未熟者です」
綴は突然の浅葱の言葉に慌てて首を振る。
あら?そうですか?と浅葱は首を傾げた。
「そんなことありませんよ。ね、雲雀?」
浅葱はふとその話題を雲雀に向けた。
にっこりと微笑みながら雲雀にそう問いたのだ。
雲雀はそれに即答で返事をする。
「うん。つーちゃんは完璧だよ」
雲雀の言葉に綴はありがとうと微笑んで返した。
それに答えるように雲雀も薄く微笑む。
すると雲雀はふと気になったことを口にした。
「ところで何故僕らは急にお茶なんてしてるんですか?」
雲雀は気になったことを浅葱に問いた。
昼間の庭の近くでこうして並んで仲良くお茶をする。
珍しいことはないのだが、今回は組み合わせが珍しい。
この二組はこうして向き合ってお茶するというより、面と向かって話すのもなかなかないのだ。
お互い部屋は同じ場所ではあるが顔合わせはあまりしない。
任務でバラバラになることが多々ある。
だからこうして四人が揃うことは珍しいのだ。
その言葉に浅葱は口を開いた。
「決まってるじゃないですか。親睦を深めるためです」
「親睦…?」
雲雀は浅葱の言葉に首を傾げる。
綴も伊吹も同時に首を傾げた。
浅葱はそんな三人に話を進めた。
「私たちは見ての通り同じ建物に住んではいますが、なかなか顔を合わせることがありません。それどころかあまり会話もない。特に雲雀、あなたとはね」
「……そうでしたっけ?」
雲雀は首をまたまた傾げながら浅葱に問う。
この四人は青葉や朱莉と違いお互いに手のうちを見せない、言わば謎に包まれてる存在。
同じ建物内に住んではいるがプライベートの話は一切しない。
というか普段どこで何をしているかもわからないのだ。
浅葱はそんな中、話を進めた。
「だからこの機会にもっと仲良くなろうと思いまして」
浅葱は笑顔で三人に向かってそう言った。
確かに今まで会話がなかった分、ここで親睦を深めるのもいい。
もしかしたら今後四人で任務にあたることも多いかもしれないから。
「確かに私たちはあまり仕事柄でも絡みは少ないですが、そこまで絡みが浅いわけでは…」
浅葱の言葉に綴は言葉を返す。
とくに綴の場合、綴が料理を作ると決まって綴の次に早起きの浅葱と伊吹が運んでくれたり手伝ってくれたりしてくれている。
伊吹もたまに綴の料理の手伝いをするし、浅葱も例外じゃない。
昼食と夕食のお手伝いは雲雀だけれど。
「確かに綴はよく私と伊吹と一緒に食事の準備をしていますし、雲雀も話をすればそれに対して返してはくれます。ですが、それ以外に私や伊吹と接触したことはありますか?」
綴は浅葱のその言葉に詰まってしまう。
「それは…ありませんが…」
綴は少し考えた。
たしかにこの屋敷での接触はあるが、プライベートではあまり接触がないなと。
砕けた話もしないし、お互いどこで何をしてるかなんてしらない。
それよか他の八華のみんなとそんなに長くは話さないのだ。
特に綴と雲雀は二人で行動することが多く、必要最低限しか接触しない。
それは二人があくまでこの八華の関係に一線を引いているからだ。
綴が考え込むと雲雀が口を開いた。
「僕は嫌ですよ。何でそんな面倒なことを…」
雲雀がそう返そうとした瞬間、浅葱の不穏な笑みに背筋が凍るのを感じた。
「おや?私に何か不満でも?」
「……いえ何も」
雲雀は圧に負けて即答で返した。
多分浅葱と戦うと勝ち目がないと悟ったのだろう。
この人に反抗してはならないと。
「それに近いうちに、私たちで任務もありそうですしね…」
浅葱はふと空を見上げながらぽつりと呟いた。
それに対し、先程から口を開かなかった伊吹が口を開いた。
「浅葱。それはどうゆう意味でござるか?」
「…勘ですよ」
伊吹がそう訪ねると浅葱はにっこりと笑いながらそう言った。
そして伊吹の頭を優しく撫でた。
しばらく四人の間で沈黙が流れた。
そよ風がそっと髪を撫でるのを感じる。
今日は天気もいい。
風も穏やかだ。
すると綴が何かを思い出したかのようにこう言った。
「そろそろ夕飯の買い出しに行かないと」
綴はそう言って立ち上がった。
思えば時は三時頃をさしていた。
そろそろ五十鈴様も帰ってくるはず。
そう悟ったのだろう。
そう言った浅葱も口を開いた。
「おや。もうそんな時間ですか」
時が過ぎるのは早いなと。
浅葱はそう思った。
綴が立ち上がるに続き、雲雀も立ち上がる。
「じゃ僕も一緒に行く」
雲雀は綴に向かってそう言った。
二人はいつも買い物を一緒に行っている。
当然雲雀も付き添いでついてくる。
「ああ。毎回すまない」
綴はそんな雲雀にお礼を言った。
すると浅葱は何かを閃いたかのような顔をして立ち上がった。
「そういえば!私もお茶の葉の買い出しに行かなければ。伊吹ついて来てくれますか?」
「は、はい!もちろん」
伊吹もそう言われ、慌てて立ち上がる。
そして浅葱はこう続けたのだ。
「せっかくですからみんなで行きましょう。その方が楽しいですし…。ええ!そうしましょう」
浅葱はいかにもわざとらしいように綴と雲雀にそう言った。
綴は首を傾げたが、雲雀は何かを感じとったのか浅葱を見たが何も言わなかった。
「別に構いませんが…」
綴は浅葱の突然の申し出に戸惑いつつも返事をした。
伊吹もそんな浅葱を黙って見守っている。
「では早速行きましょうか!いいですよね?雲雀」
雲雀は絶対断れない。
そう悟ったのだろう。
断れば後が怖いと。
「………はい…」
雲雀は返事を返した。
こればかりは仕方ない。
何より綴が了承したのだ。
断る理由がないなと、雲雀は思った。
同時に絶対浅葱を敵に回さないようにしようと改めて心に誓った。
こうして、わたしたちが戻るまでの四人の今日の一日がこんな感じで終わったのだった。
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