魔黒刀の洞窟



洞窟を見に行ったわたしたちはお昼を済ませて休憩した後、そのまま屋敷へ戻るべく寄り道せずに歩いていた。



「この分だと夕方までには着けそうだな」


「短い旅だったなぁ」



青葉と朱莉は先々と進みながらしみじみとそう呟く。


もう古清水の屋敷まで半分ちょいまで来た。


今ならさっきまで濃かった霧も晴れている。



「みんな本当にお疲れ様。明日はゆっくり休んでね」



わたしは今日ついてきてくれたみんなにお礼を言う。


今日はみんな頑張ってくれた。


特に青葉には。


明日はこの三人に休んでもらわないとね。


わたしがそう思って前へ進んでいると、風が前を遮る。


わたしは目を細めて風を腕で防いだ。


するとわたしはふと木が視界に入った。


よく見ると木の上には蛛之坂劾の姿があった。



「あなたは…蛛之坂劾!!」


「よぉ。散歩でもしてたのか?呑気なことだな」



劾はわたしたちが気づいたのを確認すると木から降り、わたしたちの前に立つ。


わたしたちはすぐに警戒した。


弓絃は刀に手を添えながらわたしの前に立ってくれている。



「他の仲間はどうした?」



弓絃は警戒しながら劾にそう尋ねる。


たしかに今は蛛之坂劾一人しかいない。


他の仲間を連れていないなんて怪しすぎる。


わたしたちは警戒を緩めなかった。


だが劾はわたしたちにこう言うのだ。



「安心しろ。今日はオレ個人の用でここにいる。あいつらは連れてきていない」



劾はくくくっと笑いながら弓絃の質問に返した。


それに続いてわたしはこう尋ねる。



「何しに来たの?」



わたしは警戒しながら劾にそう聞いた。


ただの散歩というわけではなさそうだ。


ましてやこんな森の中。


しかも古清水の屋敷に近い敷地内で。


絶対何か企んでる。


するとわたしの質問に劾はこう返してきたのだ。



「オレはそこの光の選ばれし者に会いに来ただけだ。今日も何もしない。お前らが黙って見てればの話だがな」



劾はそう言うと弓絃に目を向けた。


弓絃に会いに来た…?


何でわたしを狙ってる奴が弓絃に?


わたしは訳がわからなかった。


闇の力がほしいならわたしを狙えばいいのに、なんで光の力を持つ弓絃にまで?



「お前、名は何と言う?」


「………火神…弓絃」


「火神。ほぉ…。久々の火神家が光の持ち主か。大昔に魔黒刀を封印した時以来だな」



弓絃は警戒をしながらも劾に名前を聞かれて、名を名乗った。


なんでこいつが先代の封印のことを知っているの?


蜘蛛の妖怪と何か関係があるの?


わたしは考えた。


そう考えていると弓絃は話を続けている。



「それがどうした?」


「ただ気になっただけだ。敵の名を知るのも損はしないだろ?今日のオレはそれだけ聞きたかっただけだ。邪魔したな」



劾はそう言うと背を向けて歩き出そうとした。


すると弓絃は劾を引き止める。



「待て!!魔黒刀を…あれを返せ!!!」



弓絃がそう言うと劾は歩いていた足を止めた。


わたしたちにまだ背を向けたまま。


そして口を開いた。



「それは無理なご相談だな。オレらの目的、忘れたわけじゃないだろ?」


「なら……力づくで取り返す!」



弓絃はそう言って刀を抜いて構えた。


弓絃…。


わたしは弓絃を心配そうに見つめた。


そんな弓弦を見て劾はこう言うのだ。



「安心しろ。時期が来ればお前とも戦ってやる。その時には最高の舞台を用意してやるさ。それまで首を洗って待っておくことだな」



劾はまたしてもどこからか取り出したマントをばさっと自分を隠すと、また跡形もなくその場から姿を消した。


わたしたちは唖然とした。


また…消えた…?


一体どんなトリックなのか。


妖怪の力だからなのか。


いずれにせよ調べなければならない情報が山ほどある。


青葉と朱莉が何度周囲を見渡しても、劾の気配や姿はなかった。


弓絃はそっと刀を鞘におさめた。



「くそっ!!!」



弓絃は近くの木に自分の拳をぶつけた。


一度ならず二度までもわたしたちは敵を見逃した。


いや…むしろ見逃してくれた、というのが正しいのかもしれない。


何せわたしたちはまだ相手の力がどれほどなのか知らないのだから。


わたしたちはひとまず屋敷へ帰ることにした。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る