魔黒刀の洞窟



翌朝。


昨晩の話し合いでわたしと弓絃、青葉、朱莉の四人は魔黒刀が封印されてた場所へ向かうため、朝早くから出発していた。


魔黒刀が封印されているのは北の方。


そこに札が貼ってある洞窟があるはず。


距離は結構あるけど、夜までには屋敷に帰れる。


にしても…。



「距離が近くなるたびに霧が濃くなってきたね…」



わたしたちは霧の濃い森を木を避けながら通って行く。


もちろん先頭には朱莉が立っている。



「大丈夫です。あたしがいる限り、どんな霧の中でもはっきり見えますから」



朱莉は集中して自身の瞳を光らせながら、わたしが描いた洞窟の絵を見ながら霧の中を歩いていく。


わたしたちもはぐれないように朱莉の後を着いていってる。


朱莉を先頭にして、その後ろをわたし、弓絃、青葉の順に歩いていた。



「八華ってみんな揃うと便利なんだな…」



弓絃はしみじみにそう呟いた。


それに対し青葉が返す。



「まあみんなそれぞれ違う力を持っていますからね」


「にしても…」



弓絃はふと朱莉が持っている絵を思い出す。


出立する前にわたしから朱莉に手渡したものを弓絃は覗き見していた。


その絵は小さい子どもが描いたような分かりづらい絵だった。



「五十鈴。お前…もうちょい絵の勉強した方が…」


「うっさい!!相手に分かればいいのよ!」



わたしは後ろを振り返りながら弓絃にそう言う。


仕方ないじゃない。


絵だけは苦手なんだから。


わたしは恥ずかしさで顔に熱がこもるのを感じたが、徐々に落ち着いてきて気を取り直す。



「ところで姫様。朱莉が必要なのは分かるんですけど、オレって必要あったんですか?つーかオレの足の速さって何か関係あるんですか?」



青葉はふと思い出したことをわたしに問いた。


わたしは青葉の言葉を聞いて思い出したかのように口にする。



「あー、青葉には後で活躍してもらうわ。それまで体力は温存しておくことね」


「え?」



青葉にはいずれ役に立ってもらう。


何せ洞窟の中には、いろいろあるから。


そう思いながらわたしは詳細については口を閉じた。


そしてわたしたちはしばらく歩くと、洞窟の姿が見えてくる。



「あ!!姫様!あれじゃないですか?」



朱莉は方向を指差しながらそう言った。


入口には鳥居があり、その先は洞窟で薄暗い闇の中が広がっている。


あの場所は…!


間違いない!!



「あの洞窟よ!」



わたしは急いで走った。


みんなも急いでわたしの後を追う。


普通なら結界をくぐり抜けて洞窟へ到着するのだが、その結界の気配がない。


やはり魔黒刀がこの場所にはない証拠。


誰でも簡単に入れてしまうくらい。


いち早く洞窟の入り口に着いたわたしは洞窟の中を見る。


日が出ているせいか、中ははっきりと見える。



「うん。これなら火がなくても奥まで行けそう」



わたしはよしと頷き、青葉を見た。



「ってことで、青葉。出番よ」


「え、オレ!?」



青葉は突然の自分の指名に驚く。


そしてわたしは青葉の手をがしっと掴み、洞窟の入り口の前に立たせる。



「ここから先は一本道、初めて来た相手でも場所は分かる。道に迷うことはないわ。だからここから先は青葉が先に進んで」


「…わ、分かった。姫様の頼みなら頑張る!」



わたしは方向を指差しながら青葉にそう指示をした。


青葉も決意をしてわたしにそう言ってくれる。



「あーあと、絶対死ぬんじゃないわよ」


「………え…?」



わたしの突然の言葉に青葉はぴたっと固まる。


青葉はわたしの顔を見た。


わたしの表情は深刻そのものだった。



「い、五十鈴…?」



弓絃は突然のわたしの言葉に戸惑った。


朱莉もわたしの言葉が全く分からず、戸惑いながら立ち尽くす。


わたしは青葉の肩を勢いよく掴むとこう続けた。



「絶対、何があっても、あなたなら避けきれる。だから絶対死んじゃだめよ?いい?」


「……あのー…姫様?なんかオレ…嫌な予感しか…」



青葉がそう言いかける前に、わたしは青葉の背中をぽんと押した。



「さあ、行きなさい!」


「ええー!?…絶対何か罠とかあるよな、これ…」



青葉はぶつぶつと言いながらしぶしぶ歩き出した。


わたしたちは青葉が先に行くのを確認し、しばらく待つ。


すると悲鳴が聞こえたのは、青葉が入って数秒後。



「ぎゃーー!!!」



突然青葉の悲鳴が洞窟中に響き渡った。



「青葉!?」



弓絃は青葉の悲鳴に驚いて急いで中に入る。


これにはさすがに朱莉も戸惑っていた。



「あ、あの姫様。中には一体何が…」



青葉の悲鳴を聞いて朱莉は恐る恐るわたしにそう聞いてくる。


わたしはそんな朱莉に構わず笑顔でこう返した。



「さ、わたしたちも中に入りましょ」



わたしは朱莉の言葉を受け流して洞窟へ入る。


そして先に行った弓絃に大声で伝えた。



「弓絃ー!!できるだけ青葉と距離とりなさいよー!?あなた足速くないんだからー!」



わたしの後に続いて朱莉も恐る恐る中に入った。


わたしと朱莉はできるだけのんびり歩いている。


すると大きな広々とした場所へと辿り着いた。


そこには青葉の声を聞いて先に向かった弓絃に遭遇した。


弓絃は唖然としながら一方を見ていた。


わたしたちもそこに視線を向ける。


そこには数々の罠を避けていく青葉がいた。



「うわーー!!」



青葉は無数のクナイに追いかけられ、青葉は雷のように素早く避けていく。


避けきれたと思ったら次の攻撃。



「ひいぃぃ!!!」



次のトラップでは手裏剣に追いかけられた。



「うおーーー!!」



そして矢にも追いかけられる。


青葉はそんな数々のトラップをくぐり抜ける。


必死に。


雷にも負けない閃光のように。


そう。


これが青葉の役目。


青葉が適任と判断したこと。



「って、オレは囮か!!!」



青葉はようやく罠から抜け出せるとわたしに勢いよくつっこみを入れた。


青葉は疲れた様子で息が荒くぐったりしていた。


ちなみに青葉がトラップを相手にしている時、わたしたちはトラップが発動しないギリギリのラインで青葉の見学をし、ずっと見ていたのだ。



「しょうがないじゃない。ここは封印域よ?下手に能力が使えないの。わたしたちの能力は不利なのよ」



わたしは青葉の言葉に当たり前のようにそう返した。


これに青葉も息を切らしながら落ち込んだ。



「少しでも期待したオレがバカだった…」



青葉は地面に手をつき、落ち込む。


そんな青葉を弓絃はまあまあと言わんばかりに優しく背中を撫でて慰めた。



「オレ…こんなことするために八華に入ったんじゃないのに…!!弓絃さーん!!ううっ…」



青葉はそんな弓絃の行為に涙が出てきて、弓絃に抱きつく。


弓絃もよしよしと青葉の頭を撫でる。


まあ確かに、青葉にはちょっと悪いことしちゃったわね…。


後で改めて謝ろう。


わたしは辺りを見渡し罠がないか再度確認した。


今のところは全部発動したようだ。


しかし魔黒刀に着くまではこのトラップを抜けなければならない。


青葉みたいに足が速くないと至難の技。


わたしたちのように足が速くない能力者は、能力を発動する前に矢やクナイが刺さる。


それくらい高速なものなのだ


だから不可能なはずなのだ。


魔黒刀が封印されてたこの場所へ辿り着くのは。


じゃ一体どうやって…?


そんなことを考えていると、わたしはすぐそこにある祠のような場所へと近づく。


ここには本来封印がいくつも巻かれた魔黒刀が封印されているはず。


普通ならその場所には必ず魔黒刀がある。


だが今はその面影すらない。



「本来なら、ここには魔黒刀があるはずなのに」



わたしは魔黒刀があった場所に、自分の手で魔黒刀が乗っているはずの祠に触れる。


荒らされた形跡がない。


むしろ綺麗なほどそこは空なのだ。


ここに来れば何か手がかりがあると思った。


だがその場所は綺麗で、何もない。


わたしがそうしてる間に弓絃は辺りを見渡し、その光景を目に焼き付けていた。


そんな弓絃をわたしはちらりと横目で見る。


そうだ。


弓絃のお父さんはここで…。


わたしが何か言いかけようと口を開いだが、先に弓絃が口を開いた。



「絶対取り戻さないと。あの刀を」



弓絃がそう言うとわたしは顔を上げて、弓絃と目を合わせながら頷いた。


それに青葉も朱莉もこくりと頷く。


そうだ。


今はあの刀を取り戻すのが先。


どうにかしなきゃ。


そしてわたしたちはしばらく辺りを見渡しながら罠がないか確認したのち、洞窟から出た。


明るい日差しがわたしたちを照らし、みんなが太陽に目を細めた。



「しっかし、何も手がかりなしだったなー」


「何かあると思ったのに…」



青葉と朱莉は洞窟から出るとぽつりとそう呟く。


わたしもここに来れば何かあると思っていた。


だがなんの手がかりさえ掴めていない。


となればやはり黒妖集に接触するしか道がない。


あんまり関わり合いたくない相手だけど。


わたしがそんなことを考えていると弓絃はわたしたちと少し距離を置き、何度も洞窟の入り口の岩を触る。


わたしはそんな弓絃の様子が目に止まった。


その様子からわたしは痛いほど伝わってくる。


大好きだったんだ。


父親のことが。


そして何度も洞窟の岩を撫でてた弓絃の目から突然涙がこぼれ落ちた。


それを見てわたしもびっくりする。



「弓絃!?どうしたの?涙が…」



わたしは慌てて弓絃の傍へ駆け寄る。


その言葉に青葉も朱莉も弓絃の方を見て慌てだし、弓絃の元へ駆け寄った。



「ゆ、弓絃さん!?どうしたんですか!?」


「どこか怪我でもされましたか!?」



青葉と朱莉も心配そうに弓絃を見る。


弓絃は自分の頬に涙が突然出たのに驚いたのか、手の指に取るとそれを見ていた。



「え?あ、本当だ…。おかしいな…何で涙が…」



弓絃は慌てて涙を拭いた。


そんな弓絃を見てわたしは弓絃の背中をぽんと叩いた。


そして弓絃を見ながらこう告げる。



「大丈夫!絶対、みんなであれを壊すんだから!」



わたしの言葉に弓絃はわたしを驚いた表情で見た。


みんな同じ気持ちだ。


あれが世に出て幸せになる人なんていない。


先代様が命懸けで守ってくださったもの。


絶対取り戻さなきゃ。


これ以上犠牲者が増えないためにも。


弓絃は少し考えて、そして気合いを入れるために自分の両頬を軽く叩いた。



「…ああ。そうだな!」



わたしがそう言うと弓絃は決意固めて頷いた。


絶対必ず、取り戻して壊すんだ!


みんなのためにも。


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